(47)刀剣女子ブーム 魅力を伝え文化継承

抜刀会での迫力ある剣さばきに熱い視線を注ぐ女性たち=島根県奥出雲町横田、奥出雲たたらと刀剣館
奥出雲たたらと刀剣館の展示品。地元出身の川島忠善や日刀保たたらで玉鋼の生産技術を学ぶ刀匠らが手掛けた刀が並ぶ=島根県奥出雲町横田
 「バサッ、バサッ」。奥出雲たたらと刀剣館(島根県奥出雲町横田)で1月下旬に開かれた「抜刀会」。しんしんと雪が降る中、鋭く光る日本刀が振られ、冷気を切り裂いた。

 「すごい…」「かっこいい」。4人の若い女性が息をのんで見入り、演武の合間にささやき合った。友人と初めて訪れた専門学校生、佐伯美幸さん(20)=奥出雲町下阿井=は「本物の刀をこんなに間近で見られて感激」と興奮気味に話した。

 男性の愛好者が多かった日本刀に、若い女性の視線が注がれている。その名も「刀剣女子」。インターネットで楽しむゲーム「刀剣乱舞」などの流行がきっかけになった。全国的に関心が高まり、実物を鑑賞しようと博物館や鑑賞会に足を運ぶ人も多い。

 奥出雲には、日本刀の原料になる玉鋼を唯一造り、全国の刀匠に供給している日刀保たたら(同町大呂)がある。抜刀会は、地域が支えている日本刀の文化と魅力を肌で感じてもらおうと、地元の愛好者たちが約20年前から開いてきた。メンバーの一人、吉原安夫さん(54)は「少しでも日本刀に興味を持ってほしい」と話す。

 同じ思いを各地の刀匠たちも胸に抱く。刀剣女子ブームに乗り、ファンの裾野を広げたい全日本刀匠会事業部は、ゲームやアニメと日本刀を組み合わせた若者向けのイベントを次々に開催。理事の坪内哲也さん(56)=岡山市=は「着実に新たなファンを増やしている」と喜ぶ。

 活動の陰には、刀匠たちの危機感がある。日本美術刀剣保存協会(日刀保)が運営する刀剣博物館(東京都渋谷区)の黒滝哲哉たたら・伝統文化推進課長(53)によると、博物館の来館者数や年齢層は広がりつつある。ただ、近年は刀匠が造る新しい刀の需要は増えてはいないという。

 「日本刀への『入り口』はアニメでもゲームでもいい。今の動きが孫の代に花開くと信じている」。全日本刀匠会の三上高慶会長(60)は、需要を掘り起こして日本刀の文化を継承するためには、息の長い取り組みが必要だと説く。約30年前から、1月になると日刀保たたらを訪れて操業に携わり、玉鋼に自らの思いを吹き込むのも、そんな考えからだ。

 元来、人を攻撃するための武器を美術品として大切にする文化は、世界でも珍しいという。刀匠や愛好者たちが起こし続ける新風を受けて引き継がれ、たたらの火は奥出雲で燃えさかる。

2016年2月22日 無断転載禁止