(49)ハガネの町 「誠実美鋼」の精神継承

山陰両県のたたら経営者が興した会社を起源に持つ日立金属安来工場がある安来市。山手工場(手前)と海岸工場(左奥)に囲まれるように街並みが広がる
山手工場を見渡す山上に祭られた金屋子神社=安来市安来町
 JR安来駅の南側に位置する日立金属安来工場山手工場(安来市安来町)内の山上に、製鉄の神に祈りをささげる金屋子神社が祭られている。拝殿には300年以上前に造られた野だたらの■(金ヘンに母)(けら)が供えられ、工場全体を守護する聖域となっている。近くの金屋子展望台からは、山手工場を手前に江戸時代から鉄の積み出し港として栄えた安来港や十神山、同工場の海岸工場が一望できる。「ハガネの町」を象徴する景観だ。

 「たたら製鉄はわれわれにとってルーツであり、心の支え。真剣に仕事に向き合わないと良い鉄ができない。『誠実美鋼を生む』という精神を受け継いでいる」。安来工場の和田知純副工場長(54)がたたらへの思いを込める。

 日立金属安来工場の発祥は1899年、奥出雲の卜蔵家や安来市広瀬町の家島家、奥日野の千代家といった鉄山師らが安来に設立した雲伯鉄鋼合資会社だ。同社は奥出雲のたたらでできた鉄を北陸や四国などに売り、1904年には現在の山手工場に鉄の加工設備を設けている。

 さらに、洋式製鉄の導入などで終息を迎えた、たたらの炎が1977年、島根県奥出雲町大呂の日刀保(日本美術刀剣保存協会)たたらで復活した際は、技術と人材両面で支えた。日立系列の鳥上木炭銑工場の社員だった木原明さん(80)と渡部勝彦さん(77)が、技師長に当たる村下(むらげ)の安部由蔵さん(故人)から技を受け継ぎ、2人は現在村下として次世代を育成している。

 日立金属安来工場で生産される特殊鋼・ヤスキハガネは、スクラップなどの鉄材を高級特殊鋼としてよみがえらせる。全世界で使われているかみそりの替え刃材などとして、世界のトップシェアを占める。

 最先端の工場内で、たたらと同じ原理の工程があるのが興味深い。溶けた鉄の表面に浮き出す、ノロと呼ばれる不純物を除去する作業だ。作業者がT字形の工具を用い、人力でかき出す。たたら製鉄の操業で、炉からノロを排出するのと共通する大切な仕事だ。

 毎年冬、日刀保たたらが操業する際は、安来工場の若手エンジニアたちが補助員として参画する。和田副工場長は「村下は木炭や砂鉄といった原料を厳しく見定め、炎を見つめる。村下の探求心をはじめ、集中力やチームワークなどを学んでほしい」と願う。

 安来工場では今後、さらに特殊鋼の中でも航空機エンジン部材といった高級製品の生産を目指す。たたらに息づく、ものづくりの精神は過去から現在、未来へと引き継がれる。

2016年3月7日 無断転載禁止