(50)完 和鋼博物館 郷土の遺産今にとどめる

若杉たたらの天秤鞴や操業道具など一級の史料が並ぶ和鋼博物館。国内唯一のたたらの総合博物館として、鉄づくりの歴史を守り伝える=安来市安来町
和鋼博物館。日立製作所安来工場が企画した和鋼記念館から出発した=安来市安来町
 江戸時代から明治時代前期に、鉄の積み出し港として安来港が栄えた。奥日野や奥出雲などから運ばれた鉄が、港を通じて船で国内各地に運ばれた。そうした港の隣接地に、たたら製鉄の歴史と文化、技術を紹介する和鋼博物館(安来市安来町)がある。国内で唯一のたたらの総合博物館で、源は和鋼記念館にさかのぼる。

 記念館は日立製作所安来工場(現日立金属安来工場)が1940年、皇紀2600年記念事業として設立を企画。太平洋戦争の戦時中にもかかわらず、中国山地でたたらを操業した経営者らに広く協力を仰ぎ、資料を集め46年、安来町に開館した。作家の司馬遼太郎さんも訪ね「街道をゆく 砂鉄のみち」で紹介している。93年に移転し博物館として新たに船出した。

 「たたらの系譜を引き、砂鉄を原料に鋼を造る角炉が全盛の時代。安来工場の人たちにとって、自らの鋼のルーツはたたらという意識が強く、自分たちが記念館を造るのが当然という使命感と、放置しておくと、衰退したたたらの資料が失われる危機感があった」。安来市教育委員会文化課主事の高岩俊文さん(37)が設立時の背景を説く。

 和鋼博物館の1階に、たたら製鉄の高殿内の操業現場が分かりやすく展示されている。明治から大正期、島根県邑南町の若杉たたらで使われた天秤鞴(てんびんふいご)や、奥出雲町の靖国たたらなどで用いられた道具類250点は国の重要有形民俗文化財に指定されている。

 記念館、博物館を通じて館名に抱く「和鋼」は浜田市出身の俵国一・東京帝大名誉教授(故人)が命名。博士は冶金(やきん)学を修めた上、日本刀の作刀とたたら製鉄に初めて科学のメスを入れ館の建設に尽力した。

 和鋼博物館では安来市内の小学生が地元の産業史を学び、日立金属安来工場の来訪者が足を運ぶ。「たたらは郷土が誇る遺産。明治20年代まで、中国山地で日本の鉄の8割以上が造られた。島根には今も世界で独自な鉄造りがあると、多くの人々に知ってほしい」。同館の伊藤正和館長(65)の言葉が熱を帯びる。

2016年3月14日 無断転載禁止