暫定2車線の弊害 第1部 危険性 プロローグ 遺族は今

広常裕太被告が運転するトラックに衝突され、大破したバス。はみ出し事故の悲惨さを物語る=2015年3月26日、浜田市金城町今福、中国横断自動車道広島浜田線(島根県警提供)
後絶たぬ はみ出し事故

 島根、鳥取両県の高速道路で対向車線にはみ出す衝突事故が後を絶たない。ドライバーの交通安全意識の欠如が主因だが、簡易な仕切りで上下線を分けて対面通行する「暫定2車線」区間の多さが、重大事故のリスクを高めている。2015年に中国横断自動車道尾道松江線が全線開通するなど、高速道路網がようやく整いつつある山陰両県。どうすれば安全で安心な道路になるのか。課題と解決策を探る。


悔しい「分離帯あれば」

 「明日は日帰りで島根に行ってきます。夜9時には帰るから。その前にメールするね」

 15年3月25日夜、広島県三原市内の自宅でバス運転手の奥田昌之さん=当時(58)=が、妻美栄さん(53)に語りかけた。翌日の行程を伝えるのは日課だ。しかし、帰りを待つ美栄さんの携帯電話にメールは届かなかった。

 穏やかな日常は一瞬で奪われた。翌26日午後4時25分ごろ、昌之さんが広島方面に向け、浜田市金城町の中国横断自動車道広島浜田線(浜田道)の片側1車線区間を走らせている最中だった。対向してきたトラックが車線をはみ出し、よけきれず正面衝突した。昌之さんとバスの乗客1人が犠牲になり、乗客18人がけがを負った。


ポールと縁石だけ

 「旦那さんが事故に遭った」。勤務先の会社から一報があった。間もなく死亡が伝えられ、茫然(ぼうぜん)自失した。長男、長女と浜田市に向かい、昌之さんと対面した。顔の右半分がガーゼで覆われ、変わり果てた夫の姿。腰が砕けるようにその場にへたり込んだ。

 「一生、許せない。夫を失っただけではなく、家族の人生を狂わせた」。美栄さんの怒りは、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)に問われたトラック運転手の広常裕太被告(25)に向かう。

 現場は「暫定2車線」。限られた費用でいち早く高速ネットワークを拡大するため、将来の4車線化を前提に、中央分離帯を設けないまま開通させた区間を指す。簡易ポールと縁石だけで仕切られた片側1車線の対面通行で実に島根、鳥取両県の高速道路の9割を占める。


時速100キロ対向車線へ

 15年9月の初公判は、遺影を掲げて見守った。衝突時のドライブレコーダー映像が公開された。側面のガードレールに衝突したトラックが対向車線にはみ出し、バスとぶつかるまでの約10秒間をあえて目に焼き付けた。

 生前の昌之さんが、事故のニュースを見るたびに口にした言葉を思い出した。「事故を起こしても絶対に慌ててハンドルを切っちゃだめなんだ」。しかし、同じ職業運転手の被告は、脇見運転でガードレールに衝突すると、慌てて右にハンドルを切った。トラックの暴走を食い止める中央分離帯はなく、時速100キロもの速度で飛び込んできた。

 公判では証言台に立って意見陳述し、被告をにらみつけた。「夫には何の落ち度もなかった。安全運転をしていたのに乗客の方が亡くなり、どんなに無念だったか」。こみ上げるおえつを必死でこらえながら思いをぶつけた。

 加害者への怒りはやまない。ただ、事故以来、2車線の道路を走ると恐怖感が襲う。「どんなに気を付けても相手の過失で事故は起きる。中央分離帯が設置されていれば、夫の命を守れたかもしれない…」。今もやり場のない思いが頭の中を駆け巡る。

2016年2月9日 無断転載禁止