暫定2車線の弊害 第1部 危険性(2)高まるリスク

観光バスに衝突し、大破した広常裕太被告運転のトラック=2015年3月26日、浜田市金城町今福、中国横断自動車道広島浜田線(島根県警提供)
スマホ気取られ大惨事

 2015年9月10日、松江地裁の法廷。証言台に立った丸刈り頭の男は目線を落とし、大粒の涙を袖でぬぐいながら体を震わせた。

 「スマートフォンを3秒眺め、対向車線にはみ出しました」

 かすれ声を発したのは広島県福山市の元トラック運転手広常裕太被告(25)だった。15年3月26日、浜田市金城町の中国横断自動車道広島浜田線(浜田道)ではみ出し衝突事故を起こし、観光バス運転手ら20人を死傷させたとして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた。

 ナビ代わりにスマホを凝視した時間はわずか3秒。だが、一瞬の過失が多くの人の人生を暗転させた。被告も離婚し、職を失った。


対向車の回避困難

 15年に島根、鳥取両県の高速道や自動車専用道で起きた対向車線へのはみ出し事故で島根4人、鳥取6人の尊い命が奪われた。いずれも現場は4車線化を見据えて中央分離帯を設けず、暫定的に片側1車線の2車線で開通した区間だった。

 「バス運転手が左に車体を寄せ、減速しながら避けようとするのが見えた」

 福山市内の運送会社社員だった被告は、衝突時の状況を振り返った。トラックの速度は制限速度を30キロ上回る約100キロ。スマホを眺め、約90メートル進んだ地点で左側面のガードレールに衝突した。反射的に右ハンドルを切ると対向車線にはみ出し、バスとぶつかった。

 中央分離帯がある4車線とは異なり、車線を仕切るのは、樹脂製ポールと高さ8センチの縁石のみ。操作を誤れば簡単にはみ出す。幅員も狭く、対向車線の車が避けるのは極めて難しい。

 跡形なく押しつぶされたバスの運転席。周囲に飛び散ったトラックの積み荷や車の破片。腰を強打して動けなかった被告は「とんでもないことをした」と頭が真っ白になった。


死亡事故率は1.72倍

 事故当日、浜田市内に向けてトラックを走らせていた。到着予定時刻から2時間が遅れ「少しでも取り戻そうと必死だった」という。取引先に電話で謝り続ける助手席の同僚を見て焦りが募った。

 カーナビの年式が古く、スマホの地図アプリを起動し、運転席前に置くのが常態化していた。何度も画面をのぞき、到着予定時刻が早まるよう速度を上げた瞬間、大事故が起きた。

 「スマホを見ながらの運転は多くの社員がしていた。交通ルールを守る自覚がなかった」。最終陳述で涙ながら謝罪した被告に言い渡された判決は禁錮4年6月(求刑禁錮6年)。今も控訴審が続く。

 時速100キロを出しながら、前方不注意を犯した被告の過失は極めて大きい。一方、中央分離帯がなく、はみ出し事故の対策が万全とはいえない「暫定2車線」は、ひとたび運転を誤ると重大事故に直結する危険性を浮き彫りにした。

 鳥取県警の調査が裏付ける。10~14年の5年間、県内高速道で起きた152件の人身事故は、中央分離帯がない区間で105件発生し、死亡事故は8件。分離帯設置区間(発生45件、死亡事故2件)に比べ死亡事故率は1・72倍高かった。

 悲惨な事故は運転者の過失から生まれる。そのとき命をどう守るか。被害を最小限にするセーフティーネットの役割を備えてこそ「安全な道路」といえる。

2016年2月10日 無断転載禁止