暫定2車線の弊害 第1部 危険性(3)明暗分ける「境界線」

はみ出したワゴン車(右奥)に衝突された乗用車。車体は大破し、乗っていた男性が死亡した=2015年3月29日、松江市玉湯町林、山陰自動車道(島根県警提供)
分離帯なし死者は40倍

 2015年3月29日、出雲市大社町の会社役員の男(34)は山陰自動車道を利用し、ワゴン車で自宅に向かっていた。中央分離帯がない松江市玉湯町に差し掛かった片側1車線の区間で突然、センターラインの縁石に乗り上げた。慌ててハンドルを左右に切ると対向車線にはみ出し、乗用車と正面衝突した。

 乗用車の茨城県稲敷市の男性=当時(53)=は胸を強く打って死亡し、役員の男は自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた。16年1月に松江地裁であった公判では、エアコン操作に気を取られた脇見運転が原因だったと告白し「鉄の凶器に乗っていた。あらためて事故の怖さを感じた」とうなだれた。

 「縁石に乗り上げて初めて事故に気付いた」。島根県警高速隊の広江信男副隊長はこうした運転手の声をよく耳にした。高速道の運転は操作が少なく、単調な景色が続くため、判断力や注意力を鈍らせる「高速道路催眠現象」を誘発する。「高速道は決して安全な道路ではない」と強調する。

 はみ出しは重大事故に直結する。一般財団法人・日本自動車研究所(東京都)は時速100キロ同士で正面衝突した場合、車両の4分の1がつぶれ、車内が大きく変形するとのデータを導き出している。


大きな損失を調査

 「片側1車線の『暫定2車線』は、規制速度が遅いのに重大事故が頻発し、大きな損失をもたらしている。あり方を考える時期ではないのか」

 行政の無駄遣いをチェックする会計検査院の鈴木一美上席調査官が大がかりな調査に踏み切った理由を明かす。

 検査院は15年10月、高速道などで05~14年に発生した事故の分析結果を明らかにした。暫定2車線区間でのはみ出し事故は2208件発生し、119人が死亡。分離帯を設置した区間は30件、死者は3人にとどまった。死者数で実に約40倍の開きがあった。

 分離帯の存在が生死を分ける現実に、鈴木上席調査官は「ハード面の対策を施さなければ、はみ出し事故は減らない」と断言する。

 報告書には、暫定2車線を4車線化する費用(1キロ当たり12億~36億円)と、2車線のまま中央分離帯を置く費用(同1・4億~2・5億円)を追記し「国土交通省と高速道路各社の対応を注視する」と決断を促した。


安全と整備の両立

 山陰両県も高速道路網の整備促進に伴い、はみ出し事故が増えている。人身・物損の件数は、島根は14年に25件、15年は32件発生。鳥取は14年が27件、15年は37件に上った。島根で直近5年間に高速道で起きた死亡事故(9件)のうち、はみ出しが6割(5件)を占める。

 日本の高速道は安全性の確保よりも、ネットワーク構築が優先された。限られた費用で交通網を広げるために各地で採用された手法が、分離帯を設けないで整備する日本特有の暫定2車線だった。

 ただ、山陰両県の区間は費用対効果などから「暫定」が解消される見通しは立っておらず、命を守る視点では「足かせ」になっている。安全と整備促進を両立する手だてが今、求められている。

2016年2月11日 無断転載禁止