暫定2車線の弊害 第3部 役割(3)守る

山陰自動車道を使って出動する松江市南消防署の車両。一刻を争う現場到着に高速道路が果たす役割は大きい=松江市矢田町
緊急対応 知恵絞る消防

 「高速道路で現場に向かう」。昨春、松江市宍道町で発生した民家火災。出動した市南消防署(松江市矢田町)が山陰自動車道矢田インターチェンジ(IC)―宍道ICを約20キロ走り、宍道分署、地元消防団と消火活動に当たった。

 火勢は強く、母屋が全焼し、負傷者が出た。裏山に燃え移る恐れがあった。特命出動の水槽車や市北消防署の応援も加わり、計14台が現場に到着。覚知から約3時間後に消し止めた。

 水の確保と安否確認に追われた地元消防団宍道方面団の渡部欣治団長(58)は「人命、財産を守るには一分一秒でも早い到着が鍵を握る。高速道の存在は大きい」と実感する。

 救急分野でも高速道路の役割は増している。西日本高速道路によると、松江市消防、雲南消防、出雲市消防の3本部が山陰自動車道を利用した救急搬送件数は、宍道ジャンクション(JCT)―斐川IC間が開通した2006年は45件。斐川IC―出雲IC間の延伸に伴いさらに増え、13年は137件と3倍に伸びた。


応援協定

 半面、山陰両県の高速道は片側1車線の「暫定2車線」が9割を占めるがゆえに制約がある。

 道交法は、緊急車両の最高速度100キロを中央分離帯がない場合は80キロに制限している。対向車線にはみ出して追い越しできる特例を認めているが、事故の恐れがあり、実例は少ない。

 暫定2車線区間で事故や災害による渋滞が発生すれば、片側2車線の道路に比べて現地到着に時間を要す。このため松江市消防本部は上下線両方向から出動できるよう安来、雲南、出雲各消防と相互応援協定を結ぶ。今年2月に市北消防署に配備したはしご車は、かごが付いた先端が折れ曲がり、高架上の高速道に外部から届く仕様で担架を固定できる。

 4車線と比べ、あらゆる備えが必要な現実。福島貢消防1課長は「さまざまな事態に対応するには現場の工夫が欠かせない」と説く。


2次災害

 鳥取県西部消防局には、中国横断自動車道岡山米子線(米子道)で現地到着が遅れた事案が09年以降、計7件記録に残っている。

 帰省ラッシュと重なった13年8月11日。同県伯耆町の添谷トンネル内で、車が対向車線にはみ出した事故が発生し、重傷を含む5人のけが人が出た。事故車両が道路をふさいで上下線とも大渋滞し、出動した緊急車両6台のうち3台が現場に到着できなかった。

 「絶対に反対車線に出るな」。江府消防署の斉藤孝志中隊長(現大山消防署副署長)は、一向に進まない車両内で歯がゆさをにじませながら、全出動車両に無線で命じた。しびれを切らした一般車両が対向車線に出てUターンする連鎖が始まり、2次災害の恐れが高まっていたからだ。

 車両を降りた隊員は、1キロ以上走って一般車に左側壁に寄せるよう呼び掛けたが、現場への道は開けず、反対側から別隊がたどり着いて事なきを得た。現場統括を担う中隊長が間に合わず「これほど情けないことはなかった」と振り返る。

 「事故が起これば、高確率で道路が遮断される。われわれは人命、財産を守る使命を背負いながら、常に不安を抱えている」。斉藤副署長は暫定2車線の「急所」を挙げ、4車線化を含めた機能拡充を訴える。

2016年4月14日 無断転載禁止