暫定2車線の弊害 第3部 役割(5)避難する

原子力防災訓練で避難用バスに乗る前に、担当者のチェックを受ける参加者(右)。有事の際に暫定2車線の高速道は「命の道」として機能するのか…=2015年10月25日、松江市岡本町
原発事故時混雑を懸念

 2015年8月30日、中国電力島根原発(松江市鹿島町片句)から南に13キロ離れた松江市古志原地区の住民ら45人を乗せたバスは、暫定2車線(片側1車線)の中国横断自動車道尾道松江線を通行していた。

 原発事故を想定した島根県の広域避難計画に伴う避難先への視察事業。同年3月に尾道松江線が全線開通し、約3時間で目的地の尾道市に着いた。車内で「早くなった」と声が上がる中、竹谷強古志原公民館長(72)は不安を感じた。

 同地区は、尾道松江線につながる山陰自動車道が近くを走る。原発事故の際、放射性物質が漏れ出す前の即時避難が必要な半径5キロ圏からは外れ、いったん屋内待避する決まりになっているが、実際には「われ先に」と自主避難し、誰もが高速道になだれ込む事態は想像に難くない。竹谷館長は「暫定2車線は大渋滞を引き起こす。衝突事故などが重なるとパニックに陥る」と危機感を募らす。


負担軽く

 島根、鳥取両県は避難計画で一般道に加え、尾道松江線や中国横断自動車道岡山米子線(米子道)など高速道を避難ルートに定める。時間短縮が見込め、選択肢が増えれば渋滞緩和につながるからだ。

 特に介助を必要とする要援護者の避難には、高速道を使うメリットは大きい。

 島根原発から13キロ南の特別養護老人ホーム・長命園(松江市上乃木10丁目)。国の原子力災害対策指針や避難計画に照らすと原発事故後、毎時20マイクロシーベルトの計測では1週間以内、同500マイクロシーベルトでは直ちに、避難先に指定された尾道市の広域福祉避難所に向かう。

 ルートに示されたのは一般道と尾道松江線。須山俊二園長(63)は「早く移動でき、カーブが緩やかで路面の振動が少ない高速道路を使う」と断言する。

 入所者80人の平均年齢は86・9歳。平均要介護度は4で、階段を上り下りできる入居者は1人しかいない。寝たきりの人を車で運ぶ場合、ストレッチャーに寝かせてシートベルトを装着する。カーブが多かったり、停発車を繰り返したりすれば体に負担がかかる。

 東京電力福島第1原発事故で避難を余儀なくされた福島県。同県社会福祉協議会によると、原発30キロ圏の16福祉施設の入所者約1千人のうち、避難中や避難先で亡くなった人は350人に上った。当時は常磐道が未開通で一般道で避難した。因果関係は分かっていないが、同社協福祉サービス支援課の佐藤一也課長は「寝たきりの人に移動で身体的負担がかかったのは確かだ」と振り返る。


片側使用

 島根県の避難計画は県外に向かう上り線を避難路に定め、下り線は緊急交通路として山陽方面から食料など支援物資の輸送路に原則限定した。住民避難には片側しか使わない想定だ。

 途中では、住民や車に放射性物質が付着していないかを調べるスクリーニングが義務付けられる。尾道松江線の利用者は、雲南市吉田町内の道の駅などで行う。いったん高速道を降りる必要があり、混雑して混乱が拡大する恐れがある。

 同県避難対策室の勝部恵治室長は「現段階では暫定2車線での運用を議論するしかない」とするが、他にも緊急車両の通路確保や的確な誘導体制の構築など課題が山積する。

 原発事故の際、高速道を「命の道」として運用できるか。暫定2車線という構造が、その役割を果たすことを難しくしかねない。

  =第3部おわり=

2016年4月18日 無断転載禁止