暫定2車線の弊害 第5部 課題(2)費用便益比

山陰自動車道の仁摩・温泉津道路の西端付近。福光・浅利道路の事業化が決まり、高速道ネットワークは広がるが、暫定2車線から4車線への移行には壁が立ちはだかる=大田市温泉津町今浦(画像の一部を加工しています)
 安全考慮の整備指標を

 今年3月、整備が遅れていた島根県内の高速道路にとって、節目となるビッグニュースが飛び込んだ。

 国土交通省が山陰自動車道の福光・浅利道路(大田市温泉津町福光-江津市松川町)の事業化を決めた。片側1車線の暫定2車線で整備し、2019年度を目標に用地買収に入る。

 延長6・5キロと短いが、安来市から益田市中心部までが走行性の高いネットワークで結ばれる。県内では待望の事業化決定だった。


判断基準「1.0」

 国交省が事業化を判断する指標にするのが、向こう50年間の整備効果を示した「費用便益比」だ。

 この基準は、将来の交通量推計を基に(1)走行時間短縮(2)燃料など経費削減(3)交通事故減少-の3便益(B)を予測して金額に換算し、維持管理費を含む総費用(C)を上回るかどうかを判断基準とする。「B/C(ビーバイシー)」と略され、便益を費用で割った値が「1・0」を上回るのが事業化の前提となる。

 福光・浅利道路の場合、30年の1日交通量を約1万5千台と試算。総便益328億円(走行時間短縮220億円、経費削減80億円、交通事故減少28億円)に対し、総費用219億円でB/Cは「1・5」だった。

 B/Cは、数値化しやすく、精度が高い3便益の要素にとどまる。同省浜田河川国道事務所の平野幹人調査設計課長は「救急搬送や物流機能強化は反映されていない」と説明する。

 日本では限られた予算で高速交通網を拡大するため、将来の4車線化を見据えた暫定2車線で整備が進んだ。ただ、全国の暫定2車線2538キロのうち、16年2月現在で4車線化が決まったのは、7・7%の195キロしかない。

 会計検査院の調査では、05~14年に暫定2車線区間で2208件のはみ出し事故が発生し、119人が亡くなった。分離帯設置区間に比べて死亡事故の割合が約40倍に上ることなどから、政府は15年11月に政令を改正し、4車線に移行する手続きを簡略化した。


「公正性」担保を

 ただ、4車線への移行には壁が立ちはだかる。B/Cは交通量を加味してはじき出すため、交通量が伸びなければ、走行時間短縮や経費削減の便益は増えない。新規事業化の際に「1・0」を上回っても、暫定2車線での開通後に再びクリアするのは難しい。

 4車線化には1日1万台の交通量が必要とされる。14年度に山陰両県で超えたのは、山陰自動車道・松江玉造IC-斐川ICの1万1628台、同安来道路・米子西IC-東出雲ICの1万1671台しかない。

 中国横断自動車道広島浜田線は4051台。20人が死傷する15年3月のはみ出し事故などを受け、4車線化を要望する久保田章市浜田市長は「国の基準は厳しすぎる」と指摘する。

 島根大法文学部の飯野公央准教授(経済政策)はB/Cに加え、数値化できない「公正性」の担保が道路整備には重要と強調。「過疎地であっても人命は尊重されないといけない。危険をはらんだ暫定2車線を放置できない」とする。

 救急搬送時間の短縮や防災効果をはじめ、国と地方で、命を守る視点を盛り込んだ新しい評価軸を確立する作業が求められている。

2016年5月24日 無断転載禁止