暫定2車線の弊害 第5部 課題(3)陸路の選択肢

公開されたフリーゲージトレインの試験車両と、中国横断自動車道尾道松江線を通行する車両。陸路の選択肢として何を優先するのかが問われている(写真はコラージュ)
「最優先」の議論深めよ

 車輪の幅を自在に切り替え、レール幅の広い新幹線と狭い在来線を直通運転できる高速列車・フリーゲージトレイン(FGT、軌道可変電車)。島根、鳥取、岡山の3県議会議員協議会が中心になり、20年以上前から出雲-岡山間での導入を国に働き掛けてきた。

 国土交通省は九州新幹線長崎ルート(博多―長崎)で先行導入する方針を固め2014年4月に試験車両を公開した。しかし、耐久試験で車軸にひびが入り、実用化のめどは立たない。


時代ニーズ合わず

 今月10日、島根県議会総務委員会で県交通対策課の担当者が悲観的な試算を報告した。出雲-新大阪間のJR伯備線ルートで導入した場合、出雲-岡山間は15分短縮できるが、出雲-新大阪間は8分遅くなるとの結果だった。工事費は2380億円と見込まれ、成相安信県議(64)は「実現は非常に厳しいのでは」とつぶやいた。

 国交省は01年の段階では事業費750億円、出雲-新大阪間は22分短縮との試算を示していた。しかし、試験を重ねるにつれ、期待したほどの事業効果がないことが判明した。「導入を信じていたのに…」。国に要望を繰り返した浅野俊雄県議(85)は嘆く。

 山陰地方の交通事情に精通する鉄道ライターの土屋武之さん(50)=川崎市=は「FGTの開発が長引くうちに、性能面で旧式になってしまった。残念ながら『過去の技術』になりつつある」とする。

 こうした中、島根、鳥取など日本海側5府県の自民党国会議員は、山陰新幹線の整備を目指す議員連盟を設立。1973年以降、凍結している計画を再検証し、政府・与党や鉄道会社に働き掛ける。


両項目を重点要望

 高速鉄道の事業化と、対面通行区間(暫定2車線)の4車線化を含めた高速道路整備-。島根、鳥取両県は16年度も国への重点要望に両項目を掲げた。ともに必要な交通インフラであるのは疑いないが、財政が厳しい中で、優先順位を付けた戦略的な対応が求められている。

 「まず高速道路整備に重点を置くべきではないか」

 島根県立大学総合政策学部の西藤真一准教授(39)=交通政策論=は、人命を守る観点に立って考えるよう強調する。

 面白いデータがある。14年、西藤准教授のゼミに所属する学生5人が高速道路整備と救急医療の関わりをまとめた調査結果だ。

 済生会江津総合病院(江津市江津町)から、国立病院機構浜田医療センター(浜田市浅井町)まで33分だった救急搬送の所要時間は、山陰自動車道の整備で13分に短縮された。

 重度の外傷の場合、発生から1時間以内に止血や手術ができるかどうかで、生死を左右する「ゴールデン・アワー」についても分析。特殊係数を用いて試算したところ、開通に伴い、大量出血時の死亡率は65%から5%に減少することが判明した。

 西藤准教授は「これまで地域にとって本当に必要な交通インフラは何か、という議論がなかった」と説く。陸路の選択肢として何を優先するのか、議論を深める必要がある。

2016年5月25日 無断転載禁止