レッツ連歌スペシャル(要木 木純)・6月30付

(挿絵・FUMI)
 酒は毒にも薬にもなる

が、今回の前句です。

 酒は、人類の文明と切っても切り離せないつながりを持っています。緊張をほぐして、人間関係を円滑に進める。そのような精神的な効能も含めて、百薬の長と言われてきました。連歌も、多く酒宴の席で行われますね。しかし、酒の毒たることも古来強調されてきたわけで、何事もほどほどが肝心なのですが。

適量の適がなかなか難しい   (江津)花田 美昭

境界線さまよいながら半世紀 (広島市)原  隆一


なかなか酒との付き合い方も難しいものがあります。


 今回は、付け句に、「酒」「毒」「薬」等、前句にあるのと同じ字を使う投稿が多々ありました。連歌は、付きつつ離れることを目指すので、同字重複は避けてください。面白い発想の句もあったのですが、残念ながら採用しませんでした。それから、「毒」、「薬」両方に、関係させて詠まなくては、と頑張りすぎて無理になっている句も多かった。どちらか一方だけに付けても、自然と読者は他方も意識するもの。こだわらなくても大丈夫です。

沈黙の臓器は何も語らない   (江津)井原 芳政

飲む量と人の寿命は反比例   (益田)石川アキオ


以上は、酒が毒になる方向で詠んだ句ですが、薬になりうることも、否定はしていませんね。


 次は、酒が、夫婦関係に及ぼす毒に着目した句。

健診の結果で夫婦大喧嘩(広島・北広島)堀田 卓爾

女房に管理されてるさじ加減  (飯南)塩田美代子

朝帰り角を生やした妻がいて  (松江)持田 高行

新婚の頃はやさしい妻だった  (出雲)黒田千華子


 千華子さんの原案は「夫(つま、と読むのか?)だった」ですが、「妻」に変えてみました。奥さんも我慢できないほどに、酒に毒された夫。その夫が自分のことは差し置いて、自分に冷たくなった妻の変わりようを、ぼやいているという趣向ですが、いかがでしょう。


 呑兵衛(のんべえ)の人は、いくらいさめても、変な理屈をつけて、なかなか、酒をやめない。開き直るその態度が、おかしいやら、憎たらしいやら。

国のため倉はあきらめ飲み明かし(松江)中西 隆三

我が辞書にほどほどという言葉なく
               (出雲)原  陽子

何事もチャレンジをする姿勢こそ(出雲)矢田カズエ

人生は嗜(たしな)むほどじゃオモロない
               (江津)岡本美津子



 酔っ払いの自己弁護は、当人も自覚しているだけに、そこはかとないペーソスがあり、つい同情したくなりますね。人間は、弱いねえ。

繰り返し言いつつビンを空にする(松江)相見 哲雄

知らぬ間に越えてしまった分水嶺(れい)
               (松江)岩田 正之

言い訳をまずは自分に言いきかせ(益田)黒田ひかり

分かってる分かってるけどもう一杯
               (益田)可部 章二

医者の前では小さくなっている (松江)高木 酔子



 次の句も、ダメ人間のトホホな感じがにじみ出て、しみじみとしています。投稿した方がダメ人間だといっているのではありませんよ。念のため。

出来た人ばかりじゃ世間つまらない
               (松江)加茂 京子

好きだからやめられないよどうしても
               (大田)大谷  勇

どっちにもなれぬ半端な俺だった(出雲)吾郷 寿海

肝臓に感謝の言葉捧げつつ   (安来)根来 正幸

人生は太く短くだらしなく   (松江)土江 ユミ



 そんなこたあないだろうと突っ込みたくなるような、とぼけた味がある句も印象に残りました。

あの時にやめりゃ今頃ノーベル賞(浜田)三隅  彰

病院の売店にないのが不思議  (松江)山崎まるむ

銘柄を医療費控除に書き連ね  (美郷)芦矢 敦子

適量を独り合点の夏の夜    (出雲)栗田  枝

我が家では毎日使う調味料   (雲南)錦織 博子



 おしまいに、例によって、選者好みの、古典を利用した付け句を。

スサノオはヤマタノオロチ退治して
               (江津)江藤  清

豪快に日本一の槍(やり)をとり(江津)星野 礼佑

後世に語り継がれる由良之助  (浜田)勝田  艶


 出雲神話(古事記)、黒田節(武士)、忠臣蔵一力茶屋の段。これらはみな、歴史上の英雄たちが酒の力を借りて偉業をなした話。壮大な舞台が突如目前に広がったかのような感動があります。

  (島根大学法文学部教授)

2016年6月30日 無断転載禁止

こども新聞