(1)邑南町出羽地区(上) 自治会主導

 豊かな自然や文化に恵まれた石見地域。過疎化の進展で多くの課題に直面しているが、苦境を乗り越えようと知恵を絞り、アイデアを行動に移す多くの人たちがいる。「石見活性化キャンペーン」シリーズの第3弾「あすへの絆」では、地域単位の取り組みを追い、活力を生み出す手掛かりを探る。


 チーズ工房 一丸で誘致

 「念願のチーズ工房の開設を、産業活性化や定住促進につなげられないか」

 中国山地で広島県境と接する邑南町出羽地区。中心部に工房が開所した1月下旬、出羽自治会の大田文夫会長(66)と増田新副会長(60)が、近くの出羽公民館で振る舞われたチーズを味わいながら、今後の地域振興策について熱心に議論していた。

 工房は、町内にあるスキー場の運営会社・瑞穂リゾートが、地区内の酪農家から仕入れた生乳を使う事業の拠点として開設した。「新たな特産品として売り出し、6次産業化も推進しよう」「チーズ職人を志す若者を地域おこし協力隊員として呼び込みたい」。次々と出るアイデアには、工房を主体的に生かそうとする意欲があふれていた。

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地区内に開設されたチーズ工房を生かした地域振興策を練る出羽自治会の大田文夫会長(右)と増田新副会長
 かつて、たたら製鉄で生産された良質な出羽鋼で名を響かせ、全国屈指の牛馬市でにぎわった出羽地区。過疎化の波にあらがえず、人口は1955年の1853人から、今年1月末には904人に半減。川沿いに連なる商店街のたたずまいが往時をしのばせるが、活力の低下は否めない。

 現状に危機感を抱き、地域の元気再生に中心となって挑んでいるのが、地区内12集落でつくる出羽自治会だ。09年3月に策定した地域振興計画「夢づくりプラン」を土台に「産業」「交流」「生活」の三つの部会を設け、課題に向き合う。各部約10人のメンバーが月1回、部ごとに交わす議論には熱がこもり、活動推進の原動力となっている。

 チーズ工房の活用は産業部が受け持つ。「新たな特産品作りの核として誘致したい」と方針を決め、増田副会長が、自身が経営する建設会社の施設の一部を無償で改修し、迎え入れた。町内の複数の地区による綱引きがあったが、瑞穂リゾートの日野弘和執行役員(50)は「決め手は自治会の熱意だった」と教えてくれた。自治会が一丸となった勧誘で、地域おこしの拠点を手中に収めた。

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 地域通貨の導入や、まきステーション設置による森林資源の活用など取り組みは多岐にわたるが、特に関心を引いたのが、自治会が主導し、13年3月に設立した合同会社(LLC)出羽の事業だ。住民11人が339万円を出資して、農地集約や耕作放棄地の解消による農業振興に加え、定住促進に向けた空き家の活用を柱に据え、物件情報の収集や移住希望者との仲介など不動産業務も手掛ける。

 地区内の空き家をあっせんし、これまでに5世帯8人のIターンにつなげた。宅建業の知識と経験を生かし、LLCの社員としても活躍しているのが増田副会長。移住希望者からの問い合わせに対し、すぐに入居できる物件は不足気味という。「連絡が取れない所有者も多く、アプローチが難しい」と成果よりも、直面する課題に頭を悩ますが、外から人を呼び込もうと奔走する姿は頼もしく映る。

2016年2月19日 無断転載禁止