(11)浜田市都川地区(下) 未来に残す

景観保全のためにソバを栽培するイズモジョウの棚田で草を刈る地元住民たち
 景観守る棚田での耕作

 石垣棚田の景観美で知られる浜田市旭町都川地区で田の総数51枚、総面積1・4ヘクタールと最大規模を誇る「イズモジョウの棚田」では、耕作放棄地の景観保全のため、地元の6世帯でつくるグループが4年前から、ソバの栽培を続けている。80アールに上る耕作放棄地のうち14アールで植え付け、秋には、棚田を見上げる県道から、満開の白い花と壮大な石垣の対比が楽しめるという。

 棚田の多くを所有する大屋幸恵さん(76)ら5人が5月中旬、栽培に向け、今年初めての草刈りをした。田にはびこったり、石垣の奥に根付いたりした雑草を、機械や手作業で取り除く。大屋さんは「石垣の崩落を防ぎ、景観を保つために大事な仕事」と強調するが、高齢のメンバーたちにとって、負担は決して軽くない。

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 イズモジョウの棚田から約4・5キロ離れた「都川の棚田」の一帯でも、江戸時代に築かれたとされる棚田群の一部で耕作が行われず、荒廃が進んでいる実態がある。総面積1・1ヘクタールの「田代の棚田」で先祖代々、米作りを営む山田重夫さん(67)は「地区外への移住などで離農したところが、少なくとも10軒はある」と話す。

 確かに、整然と苗が植わる棚田のすぐ近くで、人の手が入らずに荒れてしまった石垣も目につく。景観保全に農業の継続が欠かせないことが一目瞭然だ。浜田市は農作業の省力化に向け、棚田のあぜ道のコンクリート化を補助するモデル事業を一帯で導入して支援するが、山田さんの「棚田での農業は、普通の3倍は労力がかかる」という言葉が脳裏に焼き付いた。

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 「都川の棚田」に今年、うれしい出来事があった。11枚の田が階段状に広がる「大屋形の棚田」の跡継ぎとして、寺本秀孝さん(57)が、大阪市内の勤務先を早期退職してUターンし、農業を始めた。体調を崩した高齢の父親から先祖伝来の棚田を引き継ぎ、米作りに挑んでいる。

 一帯の棚田で農業を営む7世帯のうち、一番の若手として仲間入り。山田さんは「一緒に農業を続け、景観を保持していくのに心強い存在」と期待を寄せ、寺本さんも「少なくとも自分の代は米を作り、棚田を守りたい」と決意する。

 地域に残る貴重な棚田を生かす方策は、守る取り組みの上に初めて成り立つ。山あいの風格ある景観が将来にわたって受け継がれることを願い、再訪を心に誓った。

2016年6月2日 無断転載禁止