秋山英宏の全米リポート 敗戦を糧に成長示す

「あと一歩」の積み重ね

 選手は負けて大きくなると筆者に教えてくれたのが、他ならぬマリーだった。四大大会の決勝でジョコビッチやフェデラーに敗れ、悔し涙を流す姿を何度見ただろう。

 2012年のウィンブルドン決勝ではフェデラーに敗れた。表彰式のスピーチでは、こみ上げるものがあったのか、言葉が出てこなかった。なんとか息を整え、「あと一歩なんだ」、それだけ言うとまた絶句した。

 しかし彼は、同年の全米で四大大会初優勝を飾ると、翌年には英国選手として77年ぶりにウィンブルドンを制し、男子テニス「ビッグ4」の地位を確かなものにする。

 近年の錦織は、そのビッグ4に迫りながら、壁を破れずにいた。14年のツアー最終戦では、連戦で疲労困憊のマリーから初勝利を挙げたが、以降4連敗。世界ランク1位のジョコビッチには、14年の全米で勝ってから9連敗を喫している。

 しかし、壁に挑んでははね返されての繰り返しが、錦織をよりタフな選手に育てたに違いない。この3月のデビスカップでマリーと4時間54分を戦い抜き、5月のローマではジョコビッチと最終セットのタイブレークまでどちらに転ぶか分からない接戦を演じるなど、「あと一歩」を何度も経験した。

 悔しさ、歯がゆさを味わい、一方で小さな自信を積み重ねた錦織が、とうとう金星を手に入れた。

  (テニスライター)

2016年9月9日 無断転載禁止