映画プロデューサーのささやかな日常(43)

柱とト書き、台詞で構成された『日々ロック』の完成脚本
 原作と映画脚本の関係とは?

   向き合い方毎回異なる


 ここ数カ月、来年撮影する予定の映画脚本を3本ほど開発しています。ちなみに映画業界では、まだ映画製作が決定していない段階で脚本を作っていくことを「開発」すると言います。脚本開発とは、原作の小説やコミックなどを、実写で撮影する映画向けに作り直し、人物の「台詞(せりふ)」と、状況を表す「ト書き」と、時間帯・場所を表記した「柱」で再構成する作業です(原作がない場合もあります)。

 しかし、原作のストーリーをそのまま書き起こして2時間の映画に収めることは、とうていできません。さらには、原作にない要素を盛り込むこともあります。物語の内側に手を入れる、まるで手術のような作業ですので、映画の規模にもよりますが、おおよそ1年近く脚本開発を行います。作品によっては、脇役の存在も消さなければならなかったり、場所や時間軸の流れも変えてしまうこともあります。

 たとえば主人公の設定。6月に公開した映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』の原作小説には、実は主人公の女性がどういった職業で働いているかが描かれていませんでした。著者の有川浩先生に問い合わせたところ、読者の想像を広げて楽しんで読んでもらいたいのであえて設定しなかった、とのこと。先生のお考えに、なるほどとうなずきつつも、映画としては彼女を取り巻く人間関係や生活のありよう、そして心情を描くためには働いている映像やシーンがどうしても必要だと考えました。

 脚本家や監督と意見を交換しながら、「不動産会社の営業職」という職種を設定しました。「家」に関わる仕事にすることで、その後、彼女がまったく知らない男性と同居することとリンクし、最終的にその彼と「家族」になる、という主軸を際立たせることができると思ったからでした。

 音楽をこよなく愛するバンドマンを描いた映画『日々ロック』では、主人公の高校生時代がコミックス1巻分で描かれていました。そして脚本開発の当初は、この高校生時代だけを切り取って映画全体を描こうとしていました。しかし入江悠監督と脚本の吹原幸太さんと打ち合わせを重ねるうちに、高校生時代を描くことをやめ、卒業後田舎から上京して、バイト生活を送りながらバンド活動を行っている時点から映画をスタートさせることにしました。

 高校生の物語ではなく、「夢を追いかけるバンド活動と生活のための仕事。どちらをどう選びとるのか?」という、より幅広い観客が共感できる命題を提示しつつ、切迫した状況を主人公に与える事によって、物語のドラマ性を高めようとした意図でした。

 そんなふうに、原作と脚本との向き合い方は毎回毎回異なります。原作を読んで感動した箇所、テーマ、メッセージをいかに咀嚼(そしゃく)し、どう取捨選択して映画としてそれを増幅させ観客の皆さまにお届けできるか。これこそが映画プロデューサーの大きな醍醐味(だいごみ)のひとつとも言えます。(松竹映像本部・映画プロデューサー、米子市出身)

2016年11月11日 無断転載禁止