映画プロデューサーのささやかな日常(44)

「わが母の記」で樹木希林さんが主演女優賞を受賞した時の日本アカデミー賞のトロフィー
 誰が映画の価値を決めるのか?

   一番大切な「感覚値」


 先日、ボブ・ディランさんがノーベル文学賞を受賞したものの「連絡がとれなくて困っている」といったニュースが出、それを受けて、「ディランさんは賞を権威と感じており、もしや辞退するのでは?」などと、マスコミやファンの臆測も含め、報道が過熱しました。結局、授賞式には欠席するものの受賞されるということで落ち着きましたが、このことで僕は「賞」というものは名誉でありながらも、一方で授賞する側の権威や威光をかざすことにもなる「もろ刃の剣」のように改めて感じました。

 日本映画にも数多くの賞が存在します。日本アカデミー賞、日刊スポーツ映画大賞、毎日映画コンクール、ブルーリボン賞、キネマ旬報ベスト・テンなどです。それぞれが独自の視点で選出する権威ある賞ですが、このたび、僕が関わった作品では、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』で岩田剛典さんが報知映画賞の新人賞を受賞されました。

 この他では『ディストラクション・ベイビーズ』がTAMA映画賞で作品が特別賞に輝き、出演した村上虹郎さんと小松菜奈さんが最優秀新進男優・女優賞を受賞されました。やはり自分が携わった作品、そしてある意味共に闘っていただいた俳優さんたちが受賞することには、格別のうれしさと誇らしさを感じます。

 しかし、映画において作品の評価は、大きく三つあると僕は思っています。

 いわゆる「賞」は、報道されることでみなさんに知っていただくことも含めて大きな名誉でありますし、主に評論家やマスコミ・業界関係者のプロ目線での選出なので、俳優やスタッフが今後業界で仕事をしていくことへ直接的な影響を与えます。

 もうひとつは「興行収入」。いわずもがな、どのくらいお客さんが入ったかの数字です。今年はアニメ映画『君の名は。』の興行収入が200億円を突破し、『ハウルの動く城』(2004年)の196億円を抜いて邦画歴代2位になり、世間の大きな話題となっています。やはり数多くのお客さまに支持され見ていただける事を評価と考えるのが通常です。

 三つ目は、一人一人の心にどのくらい残ったか、あるいは刺さったか。これは数値や賞では見る事のできない「感覚値」です。実は僕はこれが一番大切だと考えています。『子ぎつねヘレン』(06年)を製作した際に、当時実家の米子に住んでいた母親がとても喜んだ事を覚えています。また『植物図鑑』は、岩田さんと仕事ができることもあって会社の女性スタッフが大喜びでした(笑)。最近では、ツイッターで熱い感想を直接僕に送ってきてくださるお客さまもいらっしゃいます。

 このように自分の身近な人や届けたい人に心から喜んでもらう映画を製作することも大きな価値だと考えます。世間や業界内の評価、そして大事な家族や周りの人たちの評価なども鑑み、誰かの大切な宝物となれるような映画を製作していきたいものです。

 (松竹映像本部・映画プロデューサー、米子市出身)

2016年12月9日 無断転載禁止