世事抄録 終の棲家

 いつかは帰り、長男として家を継ぐ。固く決意して、故郷の南国を出て雪国へ向かった。途中、島根へ移って5年目、家を建てた。団地暮らしを抜け出たいという家族の夢と、家を持ちたいという自分の願望をかなえた。それでもまだ仮住まいのつもりだった。

 姉や弟が実家を見てくれているのに甘えて年月は過ぎ、結局、故郷を離れて半世紀たつ。もう両親もなく、実家はきちょうめんな姉が継いでくれた。子供たちの近くにいたいという妻の希望もかない、私の負担を軽くしてくれた。一抹の寂しさはあったが、この家を「終(つい)の棲家(すみか)」として考えるようになって久しい。

 築30年。「終の棲家」はあちこちから悲鳴を上げていた。特にすさまじい海風をまともに受けて家族を守ってくれた外壁はボロボロ。このままでは老夫婦の生が尽きるまでもたないと判断し、塗装し直すことにした。

 11月半ばに着工し、家の四面は青色の網で覆われた。どの窓を開けても青いかすみがかかっている。わずかにこぼれる淡い光は冬の予感。そして師走の初めに工事は終わり、日差しも戻った。古家に対する老夫婦のささやかな贈り物。徐々に内部のここそこも手を入れてやりたい。

 年男の申(さる)は過ぎ酉(とり)年に入った。次の年男を目指して自身のほころびも見直してみたい。

 「めでたさも中ぐらいなりおらが春」小林一茶

     (浜田市・清造)

2017年1月8日 無断転載禁止