トランプ米大統領就任/現実路線へ転換が必要だ

 トランプ第45代米大統領が就任した。就任演説では「米国第一主義」の政策を協調し、自国の利益を最優先にすると宣言した。しかし、超大国としての米国には、自由や民主主義、寛容といった建国以来の理念を基に国際秩序を築く役割がある。選挙戦での言説に縛られず、現実路線に転換する必要がある。

 就任演説が鮮明にしたのは、ワシントンに住む「恩恵を享受する支配層」対、職を奪われた「忘れられた庶民」という対立軸だ。さらに「利益をむさぼる外国」企業対、「犠牲となる米国」企業という、敵を設定する姿勢だ。

 民主的な大統領選の結果は尊重すべきものであり、トランプ氏の登場をポピュリズム(大衆迎合政治)の文脈だけで片付けてはならないが、大統領職には米国をはじめ世界が抱える格差や異文化との衝突などグローバル化の弊害を解消する役割がある。単純な敵対関係を設定したところで解決はできないだろう。

 貿易、経済、安全保障、外交などあらゆる分野で国際的責務がある。「米国第一」のためには友好国と敵対してもかまわないというメッセージに取られかねず、自国の立場も危うくするだろう。

 日米の同盟関係は、長年築き上げてきたものだ。在日米軍駐留経費負担の問題など、丁寧に説明しながら不安を取り除かなければ、アジア地域の安全保障にひびが入りかねない。日本側の働きかけと、今後のトランプ政権の対応が重要だ。

 大統領が演説で語った米産業の犠牲の末に他国が豊かになったという主張は、連携により成り立つ世界経済の現状を無視したものだ。また、他国の軍を援助し他国を守る間に米軍は劣化し、自国の国境も守れない状況になった、との説明も現実からかけ離れている。

 米国主体のIT化、グローバル経済は西側世界の繁栄の礎。米軍の前方展開を受け入れた同盟国の対応も、冷戦後の世界秩序を構築した。そこが流動化すると、新たな不安要因が表面化するだろう。また、移民がもたらした活力で米国経済は支えられてきた。

 就任直後には、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、不法移民阻止のための壁建設などを、正式に宣言した。温暖化対策への後ろ向きな姿勢も、世界に重大な影響を与える。

 「アメリカを偉大な国に」「もう一度夢を」と訴えたが、かつてのような厚みのある製造業労働層を復活させるのには時間がかかる。日本企業にも生産拠点の再配置など対応が迫られているが、外国企業の投資意欲が鈍ると、結果的には米国内景気の足を引っ張る。

 外国の低価格の製品が国民生活を支えているという現実がある。低所得層が歓迎するオバマ前大統領の医療保険改革を撤廃するというのも、社会に不安を広げる要因となろう。政策の矛盾を早期に解消しなければならない。

 当面は内政の安定に注力していくと思われるが、外向的に孤立政策を進めていけば、覇権主義的な動きを強めるロシア、中国との微妙なバランスが崩れる恐れもある。米国内外に必要なものは壁ではない。階層、国境を越えた相互理解と交流だ。

2017年1月22日 無断転載禁止