横綱稀勢の里/大横綱を目指してほしい

 初場所で優勝した大関稀勢の里が横綱に昇進することが決まった。3代目若乃花以来、実に19年ぶりの日本出身力士の横綱誕生だ。

 稀勢の里は前頭のときに白鵬の連勝を63で止めるなど、得意の型になると、無類の強さを発揮する怪力力士として存在感を高めてきた。このところは安定した好成績を残し、昨年の九州場所では3人の横綱を撃破してみせた。

 大関在位が長くなり、横綱昇進を期待する声は場所ごとに高まっていた。こつこつと努力を重ね、ついに初優勝を勝ち取った。だから、多くのファンが祝福の拍手を送るのは自然なことだ。

 若貴ブーム終盤以降のこの19年はどんな時代だったのだろう。モンゴル出身の朝青龍が速くて力強い相撲で番付を駆け上がり、土俵上での会心の笑みを見せた。

 続いて白鵬が登場した。守勢になっても勝ちきる粘り強さ、技の巧みさと鋭さ、さらに隙のなさで連勝街道を突き進み、大横綱になった。モンゴル出身の2人は特別な才能に恵まれていた。その厚い壁に、日本出身力士ははね返されてきた。

 日本相撲協会審判部長は稀勢の里が優勝を決めると、千秋楽の白鵬との対戦を待たずに、横綱昇進を諮る臨時理事会を招集するよう理事長に要請する意向を示唆した。

 横綱審議委員会は大関からの昇進条件について「2場所連続優勝か、それに準ずる好成績」と定めている。稀勢の里は昨年の九州場所では、優勝した鶴竜に2勝及ばない12勝止まりだった。

 平成に入り9人が横綱に昇進した。うち8人は2場所連続で優勝を果たしている。残る1人の鶴竜は優勝決定戦で敗れた翌場所に優勝している。

 「連続優勝に準ずる」とは、優勝と、その前後いずれかの場所での優勝決定戦進出と考えられ、実際、協会はこれまで高いハードルを維持してきた。

 今回は協会も横審も、昨年の年間最多勝は安定性の証明だとの説明をことさら強調したが、年間最多勝などを考慮するとした規定は存在しない。技量を測るのに、これまで使ったことのない物差しを持ち出した印象がある。ファンの横綱昇進の期待を感じ取った判断だろう。

 稀勢の里自身は「もっと稽古を積み、尊敬される品格のある横綱を目指したい」と意欲を語った。その意欲を評価したい。人気に負けない実力を付け、大きな期待にこたえてほしい。

 最高位への到達が終着点ではない。今後は優勝回数を増やしていくとともに、白鵬との熱戦をさらに繰り広げてほしい。大相撲ファンが今、最も心躍らせる取組だ。大相撲の歴史は名勝負でつづられてきた。これからは両横綱が白星を重ね、千秋楽で優勝を懸けて対決するのをファンは願っている。

 横綱稀勢の里に求められるものは勝ち星だけではない。国技と言われる相撲の未来のために、相撲を目指す若い関取を増やし、次々と日本人横綱が誕生するよう角界を引っ張っていく責任だ。30歳の稀勢の里は丈夫な体を持ち、馬力は健在。攻め急がない、落ち着いた取り口が増えた。自分のスタイルを貫いて、大横綱を目指してほしい。

2017年1月25日 無断転載禁止