おいしく食べる力を育む/豊かな食は地域の魅力

街の元気づくりコーディネーター 久保 里砂子

 食育基本法ができて11年になる。食育という言葉からは、食生活の改善や規則正しくバランスが取れた食事を推奨するなど、指導されるイメージを持つ方もいるのではないか。

 しかし、この法律ができた当時の小泉純一郎首相は、検討委員会で関係者にこう話したそうだ。「おいしいものを食べているときは幸せだろ。今の時代、心が病んでいる人や自殺する人も多いけど、おいしいものを食べて幸せになってほしいんだ」と。

 食は、私たちの身体をつくり、動かす大事なエネルギーであるとともに、心を豊かに、楽しくするカンフル剤でもある。

 松江市出身の石原奈津子氏が代表を務める日本食育コミュニケーション協会では、食育とは「生きる上での基本であって、知育・体育・徳育の基礎となるべきものであり、食に関するさまざまな体験を通じて、『食』に関する正しい知識と『食』を選択する力を習得し、健全な食生活を実践する人間を育てること」と提唱している。簡単に言うと「体験を通じて選択する力を付けることが食育」という。

 人はそれまでに食べたもの、見たもの、聞いたことなど、食に関するさまざまな情報から、好き嫌いや、食べるか食べないかを決めている。テレビや有識者の話をうのみにしてマイブームをつくるのではなく、できるだけ多くの経験をしながら、自分に合った食生活をしていくことが大切だ。

 私が住んでいる下北半島は、陸奥湾、津軽海峡、太平洋に囲まれており、それぞれ豊かな漁場である。また、大きな消費地には遠く、気候条件も厳しい土地であったために、大規模な農業は行われてこなかった。

 だが、近年は品種改良や気候の変化で逆にいいものがとれるようになっており、近くで消費するからこそ、完熟したものや、しっかり栄養を蓄えたものが店に並ぶ。地元においしい食べ物があることは、田舎暮らしの最も豊かなことの一つであろう。

 私は、地域食育事業として「むつベジタブルキッチン」という親子野菜料理教室と畑仕事体験の事業を実施している。おいしく食べる力と、ふるさと愛を育むことを目的とした事業だ。地元の農家が生産している「力のある野菜」を使って、子どもと一緒に簡単な料理を作りながら、食材や作り手にも関心を持てるような体験をする。

 この地域では、高校を卒業して地元を離れる子どもも多く、親元を離れた子どもが包丁を使えるかどうかで、食生活や健康が大きく異なる。また、子どものころに食べていたものがおいしかったという記憶は、ふるさとの魅力として残り続けるはずだ。

 食を大切にすることは、身体を大切にすること、食卓の場(コミュニケーション)を大切にすることであり、生産者を大切にすること、地域の暮らしを守ることでもある。私たちが豊かに暮らしていくための最初の一歩ではないか。

 地産地消や地域の特産品の開発は、地域経済のためだけではない。いま一度、身近な食を見直そう。安心して口に入れられるものを選び、幸せな気持ちになるおいしいものを食べ、それを提供してくれる人のこだわりやストーリーを共有して会話をする楽しみ、良いものを作ろうとしている生産者の苦労と自然環境との戦いに目を向けたい。

 日本の1次産業従事者が激減している今、消費する私たちが、もっと食に関心を持ち、自分たちの身体と心の源である地域の食を大切にしていかなければならない。

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 くぼ・りさこ 青森県弘前市出身。商品科学研究所、セゾン総合研究所研究員を経て、商店街活性化、街づくりを実践。2008~11年度まで、松江市中心市街地活性化協議会タウンマネージャー。青森県むつ市在住。

2017年1月29日 無断転載禁止