(30)美郷町別府地区(上) 交通弱者対策

NPO法人「別府安心ネット」が運行するワゴン車で通院する高齢者(手前)
 足守るデマンドバス定着

 寒波の到来で吹雪に見舞われた1月中旬の美郷町別府地区。午前9時前、自宅前に到着した10人乗りワゴン車に、山崎一郎さん(95)と妻のイツエさん(87)がゆっくりとした足取りで乗り込んだ。約7キロ離れた大田市内への通院で毎月数回利用する。運転手の岩根正実さん(66)から「元気かね」と気遣われ、「いつもすまないねえ」と笑顔で応じた。

 ワゴン車を運行しているのは、同地区のNPO法人「別府安心ネット」。道路運送法に基づき、過疎地住民の生活交通を支える「過疎地有償運送」と、要介護者らを対象にした「福祉有償運送」の事業者として中国運輸局島根運輸支局(松江市)の登録を受け、自分で車を運転できない高齢者など交通弱者の貴重な足として役割を担っている。

 利用者の自宅から目的地までを送迎するドア・ツー・ドアのデマンドバス。山崎さんの自宅から国道375号沿いの最寄りのバス停までは約200メートル離れ、途中に急な坂道もある。「足が悪くて、とても歩けない。希望の時間に合わせて家の前まで来てもらえるので助かっている」。つえが手放せないイツエさんの言葉に実感がこもった。

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 大田市と接する同地区では、国道375号で民間バス会社が路線バスを運行しているが、志君、惣森地域などは路線から4~5キロ離れ、町営バスの便も極端に少なく、タクシー業者もない「交通空白地域」。2012年4月に設立した同NPOの樋ケ昭義理事長(74)が「地域の足は地域で守ろう」と、1年後に運行を始めた。8人が分担してハンドルを握る。

 加入費と年会費を2千円ずつ負担してもらう会員制で、現在は、約400人が会員。料金は往復で町中心部の粕渕地区まで1人1300円、大田市街地まで1500円などタクシーよりも大幅に安く設定した。平日の午前8時半から午後5時まで運行し、13~15年の利用者は約600~800人で推移するなど、地域にとって欠かせない交通インフラとして定着している。

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 課題もある。料金を低く抑えており、運行事業は90万円の赤字。他の事業の収益や町の助成金で穴埋めしているのが実情だ。同NPOは今後、介護保険制度の改革に伴い、住民の日常生活支援事業などにも取り組み、収益を向上させて運行を継続していきたい考え。樋ケ理事長は「高齢化が進み、デマンド型交通の役割はますます大きくなる」と自覚する。

 地域の足を将来にわたって確保していく責務を引き受け、持続可能な事業運営を模索する同NPOに、住民の期待は大きい。

2017年1月31日 無断転載禁止