米入国禁止/逆効果招く「暴走」だ

 トランプ米大統領がイスラム圏7カ国からの入国禁止と難民受け入れ凍結を決めた大統領令を巡って国内外に混乱が広がっている。世界の分断を深刻化させるだけだ。国際社会が積み上げてきたテロ対策が台無しになりかねない。トランプ氏が大統領令を速やかに撤回し、異常事態を収拾することを求めたい。

 米国内では一斉に反対の声が上がり、司法や立法を通じて阻止する動きを見せている。トランプ政権の「暴走」を止めるため世界各国も協力すべきだ。

 大統領令が信教の自由を保障する憲法に違反するとするニューヨークなど15州と首都ワシントンの司法長官は共同声明で「連邦政府が憲法に従い、移民の国であるわが国の歴史を尊重し、出身国や信仰によって不当な扱いをすることがないよう力を合わせる」と表明、大統領令を無効にするため法廷で闘うことを宣言した。

 トランプ氏は「イスラム過激派を米国に入れないため、新たな審査方法を導入する」「イスラム教徒対象の禁止令ではない。そう報じているメディアは間違っている。宗教でなく、テロを問題にしているのだ」と主張している。

 しかし、従来の言動も考慮すれば、宗教に基づく排斥行為としか受け取れない。自由と民主主義、人権という価値観を高く掲げてきた米国の精神に反する大統領令であり、強い反発を受けるのは当然だろう。

 テロ対策に役立つどころか、むしろ逆効果になる恐れがある。イスラム教徒のうち過激派はわずかで、大半のイスラム教徒はテロを嫌悪している。過激派対策のためには多くのイスラム教徒の協力が不可欠だ。大統領令は、そうした協力を難しくする。

 「イスラム国」(IS)のような過激派組織にとってはイスラム教徒が不当に扱われたという格好の宣伝材料になり、メンバー獲得を容易にすることも考えられる。

 拙速な政策決定スタイルにも、強い懸念を抱かざるを得ない。大統領令を批判する共和党重鎮のマケイン上院議員は「各省との協議がほとんどないまま、実行に移してしまった」と驚いている。

 大統領令に対し全米で抗議行動が続いているほか、立法、司法、行政の各分野で反対する動きが続いている。上院民主党トップのシューマー院内総務は大統領令を覆す法案を提出すると表明。マサチューセッツなど各州の連邦地裁判事が、合憲的な滞在資格を持つ人の強制送還停止を命じる決定を相次いで出した。

 イエーツ司法長官代行は入国禁止の大統領令を擁護しないよう部内に指示し、トランプ氏に解任された。国務省の外交官の間では「テロから国民を守るという目的を達成しない」と大統領令を非難する内部メモが回覧されているという。こうした抵抗ぶりは、米国の民主主義の根強さを示すものだろう。

 国際社会では、イスラム諸国から強い非難の声が上がっているほか、フランスのオランド大統領がトランプ氏との電話会談で「民主主義を守る戦いが困難になる」と述べるなど批判が強まっている。

 トランプ氏が世界の亀裂を拡大させることを食い止める努力に日本も加わるべきではないか。

2017年2月1日 無断転載禁止