(31)美郷町別府地区(中) 農業振興

スプレーストックの生育状況を確かめる樋ケ隆行さん(左)と樋ケ勝義代表理事
 花卉と酒米特色を発信へ

 島根県美郷町北部の別府地区を流れる尻無川沿いの農地に、ビニールハウス10棟が立ち並ぶ。栽培しているのは、トルコギキョウとスプレーストック。出荷時期には、色鮮やかな花がハウス内を彩る。

 手掛けているのは、農家14戸で2006年に設立した農事組合法人「小松地営農倶楽部」。育苗用も含めた約16アールのハウスを自らの手で建設し、13年度に栽培を始めた。15年度はトルコギキョウを約2万3千本、スプレーストック約1万4400本を生産。同法人は、花卉(かき)を米に次ぐ品目の柱に位置づける。

 栽培を担うのは、13年3月に東京からUターンした樋ケ隆行さん(47)。全くの素人から始めたが、持ち前の研究熱心さで、県内生産者を対象にした16年のトルコギキョウ品評会で最高賞の県知事賞に輝いた。「今後も腕を磨いていきたい」と控えめだが、大きな手応えと自信を得た。

◇  ◇  ◇

 同法人が抱える生産面の課題にとって、受賞は朗報だ。平均年齢が69歳と高齢化が進み、設備投資への余力もなく、規模拡大が難しい中、高品質の花の出荷を増やす「秀品率」の向上が、売り上げ増の鍵を握るからだ。

 JAを中心に出荷した昨年のトルコギキョウの平均単価は1本当たり124円で、スプレーストックは53円。同法人は、品質を高めることで、それぞれ200円と100円に上げ、現在約400万円の花卉の売り上げを、まずは500万円まで伸ばしたい考えだ。

 同法人の将来を支える数少ない若手として、樋ケさんにかかる期待は大きい。雪に見舞われた1月中旬、スプレーストックの生育状況を確かめに訪れたハウス内で「良い花をつくって、信用を積み重ねていきたい」と意を新たにした。

◇  ◇  ◇

 世界遺産の石見銀山遺跡(大田市)から江戸時代、瀬戸内海側まで銀を運んだ「銀山街道」が通る土地柄から名付けた日本酒「銀路(ぎんろ)」。同法人が契約栽培する酒米「五百万石」を使い、隣接する邑南町の酒蔵「玉桜酒造」が06年から毎年仕込んでいる。美郷町内のスーパーや別府地区内の商店で1本が1350円(税抜き)の4合瓶などを販売し、地元を中心とした愛飲家に親しまれている。

 11年秋には、酒米「山田錦」を使った「錦路(きんろ)」も発売。同法人は、米の価格は不安定だが、酒米は比較的高値で安定しているとして、需要を見極めながら、酒米の栽培増ももくろむ。

 中山間地での農業振興に向け、取り組みが続く花卉生産と酒米栽培。同法人の樋ケ勝義代表理事(72)は「どちらも規模は大きくないが、地区の特色の発信につながっている」と自負。「身の丈に合った農業を通して地域を維持していきたい」と誓う。

2017年2月1日 無断転載禁止