エントロピー

 熱力学などで使う「エントロピー」という概念がある。素人なりに説明すれば、乱雑さを示す一つの指標で、自然界ではエントロピーは一定か増大するのが法則。エネルギーである熱が拡散するように、物もエネルギーも放っておけば、より無秩序に向かうのだという▼例えば、熱いコーヒーに入れたミルクはやがて混じるが、元には戻らない。松江市出身の東京工大名誉教授・安部明廣さんに教えてもらった。理屈は難しいが、誰もが経験している法則で、安部さんは「覆水盆に返らず」と例える▼人間の営みは全て当てはまる。物は時間の経過とともに劣化が進むし、使ったエネルギーは利用しづらい形質に変わる。放っておいてゴミ屋敷にすると後片付けは大仕事になる▼安部さんは、この自然界の法則に基づき21世紀は一人一人が無駄を見分ける目を養い、エネルギーを効率的に使う「低エントロピー社会」にするよう提唱。自然の一部である人間も、無秩序にならないよう良識を育てることが大事だとする▼筆者なりに解釈すれば地球温暖化はもちろん、空き家や公共施設の老朽化も根っこは同じかもしれない。高度成長期から競うように造られたが、後始末までは意識しなかったのだろう▼経済成長に水を差したくないのか質素倹約の言葉を聞かなくなった。ただラフカディオ・ハーンは孔子や孟子の言葉を引き「ごく普通の楽しみと知的娯楽に必要なもので満足することこそ、民の強さと幸せのために重要である」と指摘した。耳が痛い。(己)

2017年2月5日 無断転載禁止