トランプ氏の円安誘導批判/言いがかり反論は当然だ

 トランプ米大統領が日本を名指しして円相場を安値誘導していると批判した。根拠のない理不尽な言いがかりだ。トランプ氏らは中国とドイツの通貨安も批判しており、世界経済を混乱させかねない。政府は各国と連携して毅然(きぜん)として対応するべきだ。

 トランプ氏は日本と中国がここ数年「通貨の切り下げ」をやってきたと述べるとともに、「資金供給」を問題にした。日銀の金融緩和を指している可能性がある。ドイツについては、米国家通商会議(NTC)のナバロ委員長が「(ユーロが)ひどく過小評価されている」と批判した。米国の貿易赤字の上位を占める3カ国の通貨安をやり玉に挙げた格好だ。

 この批判は誤りだ。日本は2011年11月の円売りドル買いを最後に、為替市場に介入していない。中国は反対に過度の人民元安を防ぐために為替介入で人民元を買い支えている。ドイツは、欧州中央銀行(ECB)がユーロ圏の金融政策を独占しているためユーロ安を誘導できない。日本政府が批判は当たらないと反論したのは当然だ。

 日銀の金融緩和は確かに円安の要因であり、これがアベノミクスの柱となっているのは事実だが、物価上昇が目的で、為替操作ではないというのが公式見解である。

 むしろ最近の円安ドル高を招いているのは、トランプ政権が掲げる大規模な減税とインフラ投資への期待だ。米国の景気拡大と財政赤字膨張の予想が長期金利を押し上げ、それによる日米の金利差拡大が円安ドル高を進行させた。トランプ政権の財政政策と通商政策は矛盾しているのだ。

 そもそも08年の金融危機の後に米連邦準備制度理事会(FRB)が大規模な量的緩和を実施したため、日本は大幅な円高に苦しんだ経験がある。各国の金融政策に他国が口を出すべきではない。

 トランプ氏らの通貨安批判の根底にあるのは、保護貿易主義だ。貿易赤字の主要な原因は相手国の通貨安であり、赤字解消のためには通貨安を是正しなければならないという理屈だが、これは間違っている。米国の貿易赤字の原因は、貯蓄が国内の投資に比べて少なすぎることであり、為替相場の調整で赤字を減らすことはできない。

 レーガン政権の下で拡大した米国の貿易赤字を是正するため、日米など主要5カ国は1985年9月のプラザ合意でドル高是正に踏み切ったが、米国の貿易赤字は解消できなかった。誤った政策協調だったと言えよう。

 トランプ氏の口先介入で為替相場は一時的に円高ドル安に振れた。今後も口先介入を繰り返すと予想されるが、効果がなくなった場合、第二のプラザ合意のような国際協調を提案してくるかもしれない。各国が応じるはずはないし、応じてはならない。

 トランプ氏は環太平洋連携協定(TPP)に代わる2国間の通商協定に為替操作防止の規定を盛り込むと主張しているが、安倍晋三首相は否定的な考えを示した。10日の日米首脳会談でもこの姿勢を貫いてほしい。

 トランプ政権の保護主義は世界経済の脅威である。日本をはじめ各国は、自由貿易とルールに基づく市場経済を守るために結束を強めなければならない。

2017年2月3日 無断転載禁止