共謀罪論戦/国民の懸念拭う説明を

 「テロ等準備罪」を巡る国会論戦で安倍晋三首相は「共謀罪と呼ぶのは誤りだ」と何度も繰り返した。政府の言い分はこうだ。犯罪に合意したら処罰する共謀罪とは全く違う。合意に加え下見などの実行準備行為がないと逮捕できない。適用されるのは暴力団など「組織的犯罪集団」に限られ、一般の人が処罰されることはあり得えない。

 さらに国際組織犯罪防止条約を締結し、2020年東京五輪・パラリンピックに向けテロ対策を進めるのに不可欠と訴える。ところが野党が「計画段階で処罰するなら共謀罪と変わらない」と指摘し、現行法でテロに対処できない理由や一般の人が処罰されない根拠などをただしても「法案を検討中だから」と詳しい説明はない。

 特に法相の答弁はひどい。「検討中」とかわしたり、用意された書面を棒読みしたり。質問とかみ合わず、たびたび審議が中断した。法務省は「法案提出後に、しっかりと議論を重ねていくべきだ」との見解を文書で発表。法相自身の指示というから前代未聞だ。文書は撤回されたが、野党は反発を強めている。

 法案の必要性や基本的な立て付けについて、きちんと説明しなければ不誠実だと言われても仕方ない。しかも憲法で保障された表現の自由など基本的人権に大きな影響を及ぼしかねない法案であり、政府は多くの疑問や指摘に正面から答えるべきだ。

 政府は過去に3度、共謀罪の新設を柱とする組織犯罪処罰法改正案を提出した。しかし重大な犯罪に合意しただけで実行しなくても処罰する共謀罪に「内心の自由を侵す」と批判が噴出。適用対象を単に「団体」としたことから「市民団体や労働組合も対象になる」と反対が渦巻き、いずれも廃案に追い込まれた。

 それを踏まえ今回、共謀罪からテロ等準備罪に罪名を変えるなど一連の修正を施した。また重大な犯罪は「4年以上の懲役・禁錮の罪」と条約に定めがあり、削れないとしてきた676もの対象犯罪も半分以下に絞り込む検討を進めている。

 共謀罪の色合いを薄め、テロ組織や暴力団でなければ処罰されないと力説。加えて「テロ組織が殺傷力の高い化学薬品の原料を入手した」「複数の航空機を乗っ取り高層ビルに突っ込ませようと計画して航空券を予約した」など三つの事例を挙げ「現行法では的確に対処できない」とした。

 しかし要を得ない答弁が目立つ。化学薬品の事例を巡り「サリン等人身被害防止法の予備罪を適用できる」との指摘に、法相は「判例で予備に当たると言い難い場合がある」と述べた。そんな判例はなく「判例的な考え方」と言い繕ったが、最後は答弁を訂正した。

 航空機乗っ取りについても、野党は有力な学説を引いて「ハイジャック防止法の予備罪を適用できる」とした。政府は「予備罪に当たらないこともある。テロ等準備罪には間違いなく当たる」と反論したが、なぜ予備罪を適用できないかは具体的に説明しなかった。

 東京五輪開催に向けてテロ対策が重要なのは分かる。それだけに国民の懸念を拭うよう、きちんと正面から答え、丁寧に説明すべきだ。

2017年2月8日 無断転載禁止