アパートと空き家

 「野原ノ松ノ林ノ蔭(かげ)ノ小サナ萓(かや)ブキノ小屋ニヰ(い)テ」とは宮沢賢治の雨ニモマケズの一節。質素な家に住み、欲を持たずに生きる姿を描いたが、現代ではいや応なく経済の流れに巻き込まれる▼そんなことを考えたのは山陰両県でアパートの新築が増え、供給過剰というニュースを聞いたからだ。日銀のマイナス金利政策で金融機関がアパート建設費の融資に力を入れていることに加えて、相続税の課税強化に対応した節税手段としても注目を浴びている▼山陰では出雲市の突出ぶりが目立つ。過去10年間の賃貸物件の新築戸数は約5千戸で、松江市の約3800戸に比べて3割も多い。土地の安さに加えて、市街化を制限する線引き制度がないことで、農地転用が比較的容易なことも後押ししているという▼低い金利で資金を貸し出し、相続税に優遇策を用意してアパートの建築を増やす。工事が増えれば建設業に仕事が生まれ、家電製品なども売れる。経済を循環させるだけが目的なら政府の狙いは当たっている▼一方で、出雲市の調査で市内に約2500戸の空き家があることが分かった。崩壊の危険のある家も中にはあるが、まだ使える空き家も多い。人口減少の時代にアパートが次々と建ち、空き家が増える構図は地方の不穏な将来を予感させる▼むしろ空き家を有効活用していく対策を練る方が地に足の着いた健全な政策ではないか。アパートが林立する地域の現状を見て、賢治なら「ツマラナイカラヤメロ」と、助言してくれるだろうか。(平)

2017年2月8日 無断転載禁止