日米貿易問題/急がず多国間協定を軸に

 トランプ米政権の発足により、かつての日米貿易摩擦が再現しかねない雲行きとなってきた。米側は対日貿易赤字を減らすため、2国間の通商交渉を求めてくる見通しだが、厳しい要求を突き付けてくるのは確実で、日本は交渉に応じるべきではない。多国間協定を軸に、通商政策を進めるべきだ。

 トランプ米大統領は10日の日米首脳会談で、安倍晋三首相に自由貿易協定(FTA)など2国間通商協定の交渉入りを提案するとみられ、為替問題も取り上げる可能性がある。その後も、トランプ政権は事あるごとに対日貿易赤字の削減を迫ってくることが予想される。

 政府は自動車貿易や円安誘導に関するトランプ氏の批判は的外れだとして、対米投資の現状や金融緩和の意図を説明して理解を得ようとしている。しかし、甘い期待は禁物だ。トランプ政権の通商政策は偏った貿易観に基づいており、それを短期間で変えさせるのは難しいだろう。

 インフラ投資による米国での雇用創出などの対米貢献策も、本当に意味があるかどうか疑問だ。むしろこれが公約と受け止められると、盛り込まれた目標の達成を迫られるかもしれず、将来に禍根を残す恐れさえある。

 トランプ政権の通商政策の柱は保護主義であり、その基礎にあるのは、貿易赤字を損失と見なす「重商主義」だ。しかし、貿易収支とは単に一国の輸出と輸入の差額にすぎず、その黒字、赤字は企業の利益や損失とは全く異なる。カナダは建国以来ほぼ一貫して貿易赤字を続けているが、世界有数の豊かな国民生活を実現している。

 米国が貿易赤字削減のため、外国からの輸入に関税や「国境税」をかけると、輸入価格が上昇してインフレ圧力が強まり、金利が上昇してドル高が進行する。その結果、関税などの効果が相殺されて貿易収支は変わらない。しかし、米国の消費者は高い商品を買わされて打撃を受ける。

 一方でトランプ氏は円安誘導を批判し、ドル安円高を志向している。これはドル高要因となる関税強化などの政策と矛盾している。

 経済的合理性を欠くこうしたトランプ政権の通商戦略の土俵に上がれば、自動車や農産品などの貿易で強引な要求をのまされる懸念がある。当面は2国間の通商交渉を避け、日米両国の経済政策など共通の関心事項を関係閣僚が話し合う枠組みをつくってはどうか。結果を急がずに何年もかけて協議すればよい。

 並行して多国間の通商交渉に力を注ぐべきだ。環太平洋連携協定(TPP)もチリ、オーストラリア、ニュージーランドなどから、離脱を表明した米国を除く11カ国で進めようという提案が出ている。日本政府は米国抜きでは意味がないという考えで、協定条文の修正など困難な課題が多いのは事実だが、試みる価値はあるだろう。

 欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)、日中韓と東南アジア諸国連合(ASEAN)などとの東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉も加速させたい。これらの多国間協定が合意に達すれば、米国の輸出企業には不利になる。あせらず米国の変化を待つ戦略をとるべきだ。

2017年2月10日 無断転載禁止