米大統領令差し止め/入国禁止は見直すべきだ

 トランプ米大統領がイスラム圏7カ国からの入国禁止を決めた大統領令について、サンフランシスコ連邦高裁は、一審のシアトル連邦地裁が出した一時差し止め命令を支持すると決定、二審もトランプ政権の敗北となった。

 テロリストの流入を阻止し、国家の安全保障上の危険を防ぐために大統領令が必要だと主張する政権側が、説得力のある根拠を示せなかったことが敗因で、当然の司法判断だろう。今回の入国禁止措置はテロ対策に役立つとは考えられず、逆に過激派を利する恐れが強い。速やかに見直すべきだ。

 訴訟はワシントン州が起こし、大統領令は信教の自由や法の下の平等な保護を保障した憲法に違反している上、州立大学の運営などに深刻な損害が出ていると主張した。ミネソタ州も原告に加わった。

 連邦高裁は3人の判事の全員一致で「国家の安全保障は市民の利益に資する一方、自由な移動や家族離散の回避、差別を受けないことも重要だ。こうした苦難を考慮すれば差し止め命令の停止は正当化されない」と判断した。

 決定は「大統領令の効力の即時復活が必要な理由を説明するよう繰り返し求めたが、政府は根拠を示さなかった」と説明。過去に7カ国から入国した者が米国内でテロ行為をした証拠がないことや、今後のテロの可能性について秘密情報があれば非公開で裁判所に示す手続きがあることも指摘し、政権側の立証が不十分なことを強調した。

 これに対し「原告2州は大統領令で受ける損害について豊富な証拠を提出した」としている。

 トランプ氏は、判事や裁判所を攻撃する発言を繰り返した。ツイッターで、シアトル連邦地裁の判事に対し「一人の判事が国家を危険に陥れるとは信じられない。何か起きたら彼の責任にしろ」と露骨な個人攻撃をした。

 これには強い懸念を抱かざるを得ない。立法府、行政府、司法府が互いをチェックする三権分立は、民主主義の基盤だ。政権に不利な判断をしたからといって、裁判所を公然と侮辱するトランプ氏の感覚が国民の間で当たり前と受け取られるようになれば、民主主義の根幹が揺らぎかねない。

 トランプ氏が1月末に連邦最高裁判事に指名した保守派のゴーサッチ連邦高裁判事も、司法界で「失望を呼び、士気をくじく」と批判した。

 トランプ氏は連邦高裁の決定を「政治的な判断だ」と切り捨て、連邦最高裁で争う構えだ。大統領令に賛成する声も根強く、米世論が二分されていることが強気の背景にあるのだろう。

 同様の訴訟が各地で起きているが、ボストン連邦地裁は、大統領令の一時差し止めをいったん命じた後、政権側の主張を認め、差し止めを延長しない判断を示した。

 入国禁止がテロ対策として有効とは考えられない。過激派組織「イスラム国」(IS)との戦いを米国と共に進めるイラクも入国禁止の対象となり、イラクは反発している。共和党重鎮のマケイン上院軍事委員長は、イスラム排斥が「テロとの戦いで自傷行為になる」と指摘した。

 必要性を説明できず、世界に分断を拡大する大統領令は見直すしかないだろう。

2017年2月11日 無断転載禁止