過疎化から魅力化へ/「あの人だから問題」を超えて

島根県教育魅力化特命官 岩本 悠

 島根へ移住して丸10年がたった。私が東京から島根へ来た一つの理由は、ここが人口減少や少子高齢化といった日本の重要課題の超先進地域だからである。

 未来の箱庭であり、社会の縮図でもあるこの場所で、次代の教育と地域づくりの革新的モデルをつくり、社会や未来を変えていく。そんな妄想を抱いて飛び込んで10年。昨秋、私たちの取り組みは「日本の社会課題の解決に最もインパクトが期待できる事業」ということで、「日本を変える」特別ソーシャルイノベーターの最優秀賞をいただき、日本財団から今後3年間の継続的な事業資金が受けられるようになった。

 島根県内でさえまだ十分に理解されていない「教育の魅力化」の何が「よりよい社会のために、新たな仕組みで、大きな変化を引き起こすアイデアと実践」として評価されたのか。ポイントは三つだった。

 一つは、学校や教育の価値と可能性を再発見した点である。閉鎖的でイノベーション(革新)と無縁だと思われてきた「学校」が、実は地方創生の鍵になるとどれだけの人が想像しただろうか。

 学校や子どものためなら、教員だけでなく地域の多くの人も組織の壁や利害を超えて協働し、頑張れる。そして、地域の大人が次代の担い手の教育に向き合うことは、地域社会の未来の直視や、希望の創出にもつながっていく。大人が変われば子どもは変わる。子どもが変われば学校が変わる。学校が変われば地域も変わる。

 二つ目は、他地域に広がっていく事業という点である。多くの先駆的な取り組みは「あれは、あの人だからできる」という『あの人だから問題』と「あれは、あそこだからできる」という『あそこだから問題』に阻まれ、広がらない。

 一方、この取り組みは、「イノベーター」と呼ばれるような突出した個人依存の奮闘を超え、持続可能で増殖、進化し続けるための仕組みや制度、コミュニティー、文化といった社会生態系をつくっていくものである。モデルを拡散、普及させる方法論を持たずに「モデルづくり」事業を繰り返す行政が多い中、本事業は「モデルを広げる先駆的なモデル」となっている点が評価された。

 三つ目は、この教育と地域の魅力化が、千載一遇の時宜を得た取り組みである点である。東京一極集中の是正と地方創生が社会的課題になっている今。そして学習指導要領が大幅に改定されるとともに、大学入試改革が行われる2020年に向けて。教育も地域も大きく変化しようとする、まさに「今において他にない」というタイミングにおいて、国の改革と接合し、大きな社会的なうねりをつくる動きを辺境から起こしている点である。

 この魅力化が島根、そして日本の社会生態系となり、さらには同じような課題を抱える海外諸地域へと広がっていく。そんな未来に多くの人が共感し、期待してくれた結果としての、最優秀賞と新たな事業資金の授与だった。

 人が地域から離散、流出する「過疎化」に対して、若者や家族をひきつけ新たな人の流れを生み出す「魅力化」。高度成長期に「過疎」という言葉を世に生み、「過疎発祥の地」「過疎化先進県」と言われてきた島根が、人口減少期に自ら「魅力化」という言葉を社会に生み出した。

 過疎対策法の誕生から50年を迎える2020年、魅力化の関連法が実現し、いつしか島根が「魅力化先進県」「魅力化発祥の地」と呼ばれる日が来るかもしれない。そんな「妄想」を胸に抱きながら、新たな、さらなる挑戦が始まる。

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 いわもと・ゆう 1979年、東京都生まれ。大学時代にアジア・アフリカを巡り『流学日記』を出版し、印税などでアフガニスタンに学校をつくる。ソニーを経て、2006年から隠岐島前高校の高校魅力化に従事。15年から島根県の教育魅力化に携わる。

2017年2月13日 無断転載禁止