北朝鮮情勢/関係国で警戒を強化せよ

 北朝鮮の故金正日(キムジョンイル)総書記の長男で、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄である金正男(キムジョンナム)氏が滞在先のマレーシアで不審死を遂げた。全容はまだ解明されていないが、韓国政府は、北朝鮮工作員とみられる女性2人により暗殺されたことはほぼ間違いないとしている。これが事実なら驚愕(きょうがく)すべきことだ。

 日米首脳会談に合わせて新型の中距離弾道ミサイルを発射、北東アジアの緊張をさらに高めた北朝鮮は、対外的にも国内統治でも独善的で強硬な路線を突き進んでいることになる。

 日米韓など関係国は、これまで以上に北朝鮮の動向を綿密に分析し、有事を含むあらゆる局面を想定して警戒を強めなければならない。

 特に、日本人拉致問題という深刻な課題を抱える日本は、予測が難しい金正恩体制と今後、どのような交渉が可能なのかを改めて検討することが迫られている。

 金正男氏は、中国型の改革・開放路線を評価し、マカオや東南アジア、欧州を飛び回りながらIT分野を中心としたビジネスを展開、北朝鮮の経済再建に寄与しようとしていたとされる。

 日本や韓国を含む幅広いビジネスネットワークも生かし、1990年代にはインターネットのプログラムを持ち込み、産業技術の近代化を下支えしたともいわれている。

 しかし長期にわたる海外生活で時として外国メディアの取材に応じ、3代世襲という権力継承の在り方に疑問を表明したことが、金正恩体制を怒らせたとされる。

 過去にも、北朝鮮の最高指導者につながる親族の中で、韓国に亡命し北朝鮮の内情を暴露するなどして反発を買い、脱北者などを装って北朝鮮から派遣された工作員に殺害された人物がいた。体制側の人間であっても、反体制的な言動を示せば、命を奪われる危険もある。

 これは封建時代のような昔話ではない。21世紀にもこうした体制が存在しているという現実は、北朝鮮の特異性を物語る。しかし、それでも核・ミサイル開発や拉致問題の解決のために、北朝鮮に対応しなければならないというのも現実だ。

 日米韓は、これまで以上に緊密に北朝鮮情報を掌握、共有する必要がある。今回の中距離弾道ミサイル発射も、事前の探知作業を北朝鮮にかわされ、発射後もミサイルの種類を判定するのに手間取った。

 北朝鮮は年頭から、米国本土に到達する大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射を予告している。今後もICBMの完成に向け、開発段階ごとにさまざまなタイプのミサイル発射を繰り返すことが予想される。ミサイル防衛システムの精度向上はもとより、日米韓が一体となった外交的、軍事的な抑止力強化が必要だ。

 北朝鮮国内では、16日の故金総書記の生誕記念日に合わせ、さまざまな祝賀行事が続いている。外国からの代表団も平壌を訪れ、北朝鮮メディアは和やかな雰囲気を伝えている。

 その一方で展開されている挑発的な軍事行動や血なまぐさい事態との落差に惑わされがちになるが、北朝鮮の思惑を冷静に判定しなくてはならない。

2017年2月16日 無断転載禁止