トランプ氏とメディア/ひるまずに事実の追求を

 トランプ米大統領が記者会見で「偽ニュースを流している」と米主要メディアを激しく非難し、圧力を強める姿勢を鮮明にした。しかし、事実に反する発言が目立つのはトランプ氏や側近たちの方である。事実に基づかない政策を超大国の米国が進めることへの危機感を改めて抱かざるを得ない。

 米主要メディアは、入国禁止の大統領令やフリン大統領補佐官の辞任に発展したロシア絡みの疑惑などを連日報じている。トランプ氏は記者会見で「テレビをつけても新聞を開いても混乱の話ばかりだ。実は反対で、政権はよく調整された機械のように動いている」と主張し、ニューヨーク・タイムズ紙やCNNテレビなど主要メディアへの不満をあらわにした。

 また政府機関からメディアへの「違法な情報漏れ」を「司法省に調べるよう指示した」と述べた。政権に不利な報道を「偽ニュース」と決めつける一方、情報漏れを調べるという理屈は分かりにくいが、主要メディアを敵と位置付けて支持者にアピールする戦略なのだろう。

 しかし、うそを平然とつく態度は目に余る。今回の記者会見でもトランプ氏は、昨年の大統領選で獲得した選挙人について「レーガン元大統領以来最多と思う」との主張を繰り返した。だが、事実はレーガン氏の後、トランプ氏を下回ったのは息子の方のブッシュ氏だけだ。

 トランプ氏は就任翌日の1月21日、主要メディアが就任式の人出を過少に報じたと非難した。スパイサー大統領報道官も「過去最高の人数」と主張したが、根拠とした地下鉄の乗降客数などのデータが間違っていた。ところが、コンウェー米大統領顧問は「オルタナティブ・ファクト(もう一つの事実)」だと居直った。そのため「それは単なるうそだ」と断ずる主要メディアとの対決が決定的となった。

 従来の米大統領も自国や政権の利益を優先してきたが、大統領や報道官の言葉の多くは、自由と民主主義を掲げる同盟国や抑圧下で闘う世界の人々に、理想や目標を示す重みがあった。現政権では、それが一変した。うそを事実と言いくるめるのは独裁国家の手法に近い。

 就任式の人出の問題では実害はないかもしれないが、根拠となる事実が明確でないイスラム圏7カ国からの入国禁止令では深刻な混乱が起きた。

 米主要メディアは、政治家の発言が事実か検証する「ファクト・チェック」報道に力を入れている。今後も、ひるまず事実を追求するだろう。その姿勢を支持したい。

 ただ「うそも100回言えば人は信じる」というように、論理的でない言説が当たり前になれば慣れてしまう恐れがある。そうした不安感から、英作家ジョージ・オーウェルの反ユートピア小説「1984年」が米国で突然、ベストセラーになったのだろう。独裁国家が歴史を改ざんし、新言語「ニュー・スピーク」を押しつけ、市民の論理的思考が封じられた状況を描いた作品だ。

 欧州でも難民問題などで事実に基づかない言説が問題になっている。われわれも事実に基づかない言説や政策に警戒を怠らないようにしたい。

2017年2月19日 無断転載禁止