相模原殺傷事件起訴/共生へ課題克服の知恵を

 相模原市の知的障害者施設「津久井やまゆり園」で昨年7月に起きた殺傷事件で横浜地検は殺人罪などで元施設職員植松聖容疑者を起訴した。措置入院歴があり、犯行前に衆院議長公邸に襲撃予告の手紙を持参するなど不可解な言動も多かったことから、5カ月にわたる鑑定留置で精神状態を調べ、完全な刑事責任能力があると判断した。

 19人が刺殺され、多数が負傷する未曽有の惨劇を巡り、植松被告は今なお「障害者なんていらない」「抹殺が最善の救う方法」と、ゆがんだ主張を繰り返しているという。動機をはじめ凶行に至る経緯には依然として不透明な部分があり、今後は法廷で解明が進められることになる。

 そうした中、政府は今国会に措置入院患者の支援強化を柱とする精神保健福祉法改正案を提出する。退院後も医療などの支援を継続し、社会復帰を後押しするとしている。相模原市も退院後の支援に関するガイドラインを見直した。いずれも植松被告が退院後に所在不明となり、前兆がありながら犯行を防げなかったのを踏まえた対応だ。

 ただ監視のためではなく、孤立を防ぐための支援であることを確認しておく必要があるだろう。さらに事件からは障害者への偏見や差別が社会に根強くあることもうかがわれ、共生の実現に向け克服すべき課題は多い。一つ一つ着実に手を打っていきたい。

 鑑定で植松被告は「自己愛性パーソナリティー障害」などと診断された。自分を特別な存在と思い込み、過剰な賛美を求めるといった特徴がこの障害にはあるが、過去の裁判例では善悪を判断できる状態で刑事責任能力はあるとされている。事件前に包丁や結束バンドをそろえるなど被告が見せた周到な計画性も公判の焦点になるだろう。

 事件の解明とともに重要なのが再発防止の取り組みだ。相模原事件の1年4カ月前に兵庫県洲本市で男女5人が刺殺される事件があった。被告の男は以前に2度、措置入院となっていた。精神疾患で加害の恐れがある場合に行政が強制的に入院させる制度で、植松被告にも適用された。

 だが兵庫県が洲本の事件を踏まえ、昨年春には退院後の支援継続などに動きだしていたのに、そうした経験や情報は生かされなかった。ようやく制度の見直しに至り、相模原市も退院後の支援の対象を患者全員に広げることを決めたが、全国に浸透させていく必要がある。

 併せて相模原事件で問題点が多々指摘された警察や自治体、施設の連携についても各地で点検と整備を進めたい。課題はまだある。事件から半年の追悼集会で障害者団体代表は、インターネット上には植松被告の独善的な主張に同調するような意見も少なくない点を挙げ、そうした空気を懸念した。

 また知的障害のある人の親たちでつくる団体は、障害者施設の新設や建て替えに近隣住民が反対する例が増えているとしている。同様の事件が起きないかという不安があるようだが、障害者が地域で生き生きと暮らせるようにする環境づくりにブレーキがかかる懸念もある。

 共生に影を落とす、いくつものハードルを乗り越えるために国や自治体、地域が協力して知恵を出し合いたい。

2017年2月25日 無断転載禁止