傷付いた老舗の暖簾

 落語「麻のれん」に登場する強情っぱりの杢(もく)市(いち)。他人の家に泊めてもらうことになり、部屋まで案内してくれるというのを断ったのは良かったのだが、くぐった暖(の)簾(れん)を蚊帳だと勘違い。蚊帳の外で寝込んだものだから、蚊の餌食となって顔中コブだらけ▼同じ暖簾の失敗でも、こちらは何と勘違いしたのか。東芝は、米国での原子力事業がつまずき7000億円超の損失が発生するという。その原因が傘下の米原子力子会社が買収した原子力発電建設会社の「のれん代」の誤算だった▼古めかしい響きの「のれん代」だが、企業会計の正式な用語。買収先企業のブランド力などを加味して支払った額と、実際の純資産との差額を指す。ふたを開けたら買収先の価値が想定外のマイナスだった▼歴代3社長が関わった利益の水増しという不適切な会計処理の発覚に端を発したドタバタ劇。保有資産を全て処分しても負債を完全に返せない債務超過の危機に直面している▼明治初期の電信機製造を源流とする歴史は百四十余年。東芝はその間、冷蔵庫や洗濯機など白物家電の国産化をリードし、高度経済成長に沸く日本の暮らしに潤いをもたらしてきた▼16万人超という従業員の生活がかかっているだけでなく、原発の廃炉や国外流出させたくない半導体製造の高度な技術を有する企業再建の持つ意味は大きい。一連の騒動来、決算発表の先送りを繰り返した東芝だが、世紀をまたぎ先人が築き上げた暖簾を、社内のアラを覆う目隠しにしてはならない。(球)

2017年2月27日 無断転載禁止