米大統領施政方針/軍拡競争が懸念される

 トランプ米大統領は施政方針演説で、米国の歴史上、最大規模となる国防費の増額を求めると宣言した。米政府当局者によると約10%、540億ドル(約6兆円)の増額が想定され、国防費は空前の6030億ドルに達するという。

 「偉大な米国」の実現という狙いだが、一方で国務省や開発援助など非軍事部門の対外関係予算の大幅な削減が予想され、軍事偏重、外交軽視と言える。これではソフトパワーも含めた米国の総合的な力の衰退が懸念される。

 イスラム圏7カ国からの移民禁止を司法が阻止したように、国防予算案も議会がすんなり通すかは分からない。トランプ政権の過激な政策に対しては米国の強みである三権分立の機能を十分に発揮し、抑制すべきだ。

 最近の米国の軍拡は、1980年代のレーガン政権と2000年代のブッシュ政権の時代だ。レーガン政権の場合は冷戦のさなかで、ソ連という具体的な「敵」があった。ブッシュ政権の場合はテロとの戦いの中で防衛予算が拡大しイラク戦争という結末で終わった。

 トランプ氏の軍拡は、「イスラム国」(IS)の消滅と中国の軍事的な伸長に対抗するためとみられるが、いずれも大軍拡で対応すべき相手なのだろうか。ISやイスラム教徒の過激テログループに対しては、より長期的な軍事・政治・経済の取り組みが求められる。激しい怒りを持って欧米社会に暴力的に挑戦してくる彼らを、トランプ氏が言う「地球から消滅させる」ことは、難しい。さらにトランプ氏の発言ではイスラム圏全体を敵に回す恐れがある。

 トランプ氏の軍拡方針は、中国が毎年2ケタ台の軍事費増強を続けていることへの対抗措置とも言える。半面、中国が米国の軍拡を新たな脅威ととらえれば、軍拡競争がエスカレートする懸念もある。

 施政方針演説でトランプ氏は友好国には「戦略、軍事作戦両面で直接的かつ有効な役割を果たし、公平に費用を負担するよう期待する」と述べた。名指しこそしていないが米国の軍事拡張路線の中で日本に対しても、負担の拡大を求める意向と受け止めるべきだろう。

 これまでも米大統領は同盟国の負担増を求めてきたが、「軍事作戦」というトランプ氏の踏み込んだ言い方が気になる。トランプ氏は演説で「私は世界を代弁するのでなく、米国を代表する」と「米国第一主義」を確認したが、その意味からも直接的な軍事貢献を求めてくる可能性がある。

 一方、トランプ氏は1兆ドル(約113兆円)のインフラ整備や法人税の低減、中間層の大幅減税の方針を語ったが、国防費の大幅増額と同様、財源については明言しなかった。これでは、財政均衡派が多い共和党議会の同意は簡単には取り付けられず、その実現は不透明だ。

 トランプ氏は自由貿易の結果、いかに米国の製造業が中国などに奪われたかを力説したが、自動化やコンピューターの導入こそが職を失う真の理由であるとも言われている。人工知能時代の到来でますます単純労働が消える懸念がある中で、トランプ氏が「敵」をたたくばかりで、そうした問題の解決を呼びかけなかったことは残念だ。

2017年3月2日 無断転載禁止