残業時間の上限規制/労使が納得いく議論に

 政府が長時間労働を抑制するために検討している残業時間の上限規制について、労使の主張の隔たりが大きく、調整が難航している。焦点となっているのは、繁忙期の上限時間数だが、労使双方が納得のいくまで議論を尽くすべきで、政府も議論を導く役割を果たしてほしい。

 政府は2月に開いた働き方改革実現会議で、1年間の残業時間の上限を720時間(月平均60時間)とする案を提示し、連合と経団連は受け入れる意向を示した。繁忙期の上限時間については、1カ月100時間、2カ月なら月平均80時間とする案を検討しているものの、労働側の反対が強く、明記しなかった。

 政府は労使の合意を得た上で、3月中にまとめる働き方改革の実行計画に残業時間の上限規制を盛り込む方針だ。これを踏まえて労働基準法改正案に上限時間を明記し、罰則を設ける。

 繁忙期の上限時間に関する政府の検討案について、連合の神津里季生会長は「100時間など到底あり得ない」と強く批判。経団連の榊原定征会長は月100時間の上限に賛同した上で、より厳しい規制を求める連合の主張に「実態と懸け離れた規制は企業の競争力を損なう」と反論し、対立が鮮明になっている。

 労働時間の短縮が進まない大きな原因は、労使が協定を結べば、繁忙期に年6カ月まで残業時間を事実上、無制限に設定できるように労基法が定めていることだ。その意味で、政府が残業時間の上限規制を打ち出したのは大きな一歩だが、問題はその内容だ。

 年間の上限時間を720時間とすることは労働側も経営側も認める方針で、争点は繁忙期の上限時間にほぼ絞られている。議論は連合と経団連に委ねられた形で、政府が検討している1カ月100時間、2カ月平均80時間という案が議論の軸とされている。

 この検討案の最大の問題点は「過労死ライン」に近いことだ。厚生労働省の脳・心臓疾患の労災認定基準は、発症前の1カ月に100時間超、2~6カ月に月平均80時間超が目安。これを上限として労災を防止するのが狙いだが、過労死ラインぎりぎりの残業を容認する格好になり、労働側などから批判が出ている。

 そもそも労働者が実際の労働時間を記録しないサービス残業が横行している現状では、残業時間の上限規制が導入されても、どれだけ残業を減らす効果があるかは疑わしい。この問題の解決策も考える必要がある。

 政府がこの問題の議論を連合と経団連に実質的に丸投げした格好になっていることも理解に苦しむ。政府には、長時間労働の抑制という大きな目標のために、行き詰まりを打開するべく、積極的に責任を果たしてもらいたい。具体的には、繁忙期の上限時間に関する検討案をいったん白紙に戻して再検討する方法も考えられる。

 経団連の榊原会長が長時間の残業を正当化するのに「企業の競争力」を持ち出したことに対しては、残業時間を減らすことと、生産性を高めて競争力を維持することは両立するはずとの反論もある。

 連合は安易な妥協の道を探ることなく、健康で人間らしい働き方を実現するために厳しい規制を求める姿勢を貫くべきだろう。

2017年3月3日 無断転載禁止