おーいでてこーい

 短編小説の旗手・星新一の名作を思い出した。台風で神社が倒れた後に出現した穴。穴に向かって「おーい、でてこーい」と叫んでも、石ころを拾って投げても、何も返っては来なかった▼学者が来た。利権屋が暗躍し、怪しげな者たちが核のごみや機密文書を捨てに来た。<穴は都会の住民たちに安心感を与えた。生産することばかりに熱心で、後始末に頭を使うのは誰もが嫌がっていたのだ>。そして意外な結末に▼ある日、ビルの上にいた男が頭の上で、「おーい、でてこーい」と叫ぶ声を聞く。そして、声の方角から小さな石ころが彼をかすめて落ちていった。恐ろしいことが起こる予感。やがて地上に降り注ぐものを暗示して物語は終わる▼その小説が現実になった錯覚。東京豊洲の新市場は地下からしみ出た汚染水で開場も危うく、大阪の私立小学校建設地には、大量のごみと不透明な土地取引の闇が埋まっていた。埋めたはずのごみが社会にしっぺ返しを始めている▼豊洲問題で、石原慎太郎元知事が会見した。汚染は知っていたが新市場は前任者からの既定路線で、責任があるとしたら都庁全体と都議会にもある、らしい。それより使える豊洲を現知事が放置している方が何倍も悪いと主張した▼東京も大阪も、官民ぐるみの土地騒動。目の前から消えれば済む、ばれなきゃ良いと思ったのか、不透明なことが多過ぎる。ずさんな開発手続きに乗じて、誰かが暗躍したのだろうか。責任者はいったい誰なんだ。「おーい、出てこーい」(裕)

2017年3月4日 無断転載禁止