世事抄録 明治は遠くなりにけり

 「降る雪や明治は遠くなりにけり」。俳人・中村草田男の昭和初期の作だ。作者の真意は定かでないが、明治を懐かしむ哀切の響きが伝わってくる。父と義父はくしくも明治45年生まれ、存命なら105歳である。2人とも頑固で生真面目、信義にあつい古武士然とした生きざまは終生変わらなかった。遠くない将来、明治生まれの人はこの世からいなくなるだろう。平成から新しい年号に近々変わるとしたら、明治は四つ前の時代になる。明治を知る人も、関心を寄せる人も減り、時の流れの中に埋没していくのかもしれない。

 音楽を愛したわが母が大正時代にはやった「ゴンドラの唄」をハーモニカで奏でた日を思い出す。母の死とともに大正は私の中から去った。鹿児島に住む大正8年生まれの義母は1月に98歳になった。明治、大正を生きた両親による、礼節を重んじる教育は厳然と義母に息づく。大正時代の思想、文化、昭和初期から戦中戦後の暮らしなど、聞いておけばよかった。あと何回、その機会があるだろう。

 63年にわたる昭和は激動の時代だった。生を受けた年によって、価値観も「昭和」に対する思い入れも違うだろう。昭和19年生まれの私は戦後の民主教育を受け、高度成長とともに走った。紆余(うよ)曲折はあったが、良き時代だった。私にとってはまだ昭和は近くにある。

    (浜田市・清造)

2017年3月5日 無断転載禁止