2017年春闘/不十分だが新たな動きも

 自動車や電機の大手企業が、2017年春闘の交渉結果を一斉に労働組合へ回答した。影響力のあるトヨタ自動車は基本給を底上げするベースアップ(ベア)に応じたものの、前年を下回る水準で妥結。日立製作所など電機大手のベア回答も同様だった。

 従来に比べて円高気味となっている上、トランプ米政権による経済運営の不透明感がぬぐえず、経営側は総じて慎重姿勢を崩さなかった。

 全体として4年連続のベアが実現したことは歓迎できるが、家計を温め、湿り気味の個人消費を後押しするには力不足が否めない。

 しかし今年の春闘は、賃金改善だけでなく、働き方改革の点で新たな動きや変化が表れたことを見逃したくない。電機大手の労使は働き方改革で初の共同宣言をまとめ、人手不足が深刻な宅配便業界では思い切った仕事の見直しが進行中だ。

 少子高齢化で働く世代の人口が細る日本では、仕事のやり方を大胆に見直さなければ職場がもたない。企業の存続にかかわる問題である。

 この問題の解決へ向けた変化が春闘交渉の中に表れ始めたことを大切にし、実を結ぶよう育てていきたい。

 とはいえ、春闘最大の課題は所得の向上にある。その点で今春闘は、スタート時点で懸念された要因が最後まで交渉に影を落とした格好だ。円高傾向やトランプ政権が主張する保護主義的な経済政策は、米国市場に依存する自動車や電機の経営陣を身構えさせるのに十分だった。

 結果は、自動車最大手のトヨタが組合要求のベア3千円に対して1300円を回答。昨年を200円下回った。日産自動車は昨年、3千円の要求に満額を回答したが、今年は半分の1500円にとどまった。

 一方、電機大手は3千円の要求に千円で妥結。昨年は同額の要求に1500円を回答しており、やはり前年割れを余儀なくされた。

 「官製春闘」の旗振り役である安倍晋三首相は昨年秋に早々と、17年の賃上げは「少なくとも今年並み」とするよう経済界に求めた。アベノミクスが手詰まり気味となり脱デフレが足踏みしているためで、賃金改善を足掛かりに景気を押し上げたいとの思惑が込められていた。

 その点でトヨタの回答は首相の要請を意識した水準と読めるが、電機ははるかに及ばない。民間の賃金決定に口出しをする官製春闘の限界といえるだろう。過去3年は全体でベアと定期昇給を合わせた賃上げ率が2%に達したが、今年はベアが低水準に終わったことで、その実現も微妙だ。

 中小企業の多くはこれからが春闘本番だ。大手の妥結を映した厳しい交渉が見込まれるが、中小の賃金改善は地域経済の活性化につながりやすい。人手確保のためにはもちろん、経営側にはそのような観点に立った賃上げ判断を望みたい。

 日本経済の成長力が低く消費が鈍いのは、社会保障などの負担が増え続け、人々の将来不安が解消されないためとされる。経団連は、賃上げしても半分近くが社会保険料の増加で打ち消されていると指摘している。政治に求められるのは負担と制度の将来像の明示だろう。

2017年3月16日 無断転載禁止