桜に思う

 あまたある花暦の中でも、桜は特別。だれもが前線の列島北上を待ち望んでいることだろう。日本気象協会や民間4社が3月10日までに出した予想では、松江市での桜の開花は3月28~4月3日、満開は4月4~10日という▼年によって前後するとはいえ、ほぼ決まった時季に届く花便りに生命の不思議を感じる。桜の花芽は夏に形成された後に休眠し、冬の寒さで目覚める。そして三寒四温の中で再び成長し、花を咲かせるという▼冬あってこその開花といえば、何だか人生に重なって見える。春の訪れとともに一気に開き、潔く散る姿に、江戸時代を生きた禅僧・良寛は「散る桜/残る桜も/散る桜」と詠んだ。生老病死という人生の自然を受け入れる覚悟が花吹雪に映る▼桜は、出会いと別れも演出する。花見を兼ねた歓迎会をよく見かけるが、この花にはなぜか別れのイメージが強い。華やかさが鮮明なほど、絆を紡いできた人との別れの寂しさが強調されるからだろうか▼進学や転校、就職、転職など別れの形はさまざまにある。ただ、いずれも新たな景色の中に身を置き、一歩を踏み出すという状況は一緒だ。今、人生の門出に立とうとしている人たちの胸中にあるのは期待か不安か。今年の桜をどんな思いで見つめるのだろう▼この時季、だれにも別れがたい大切な人がいる。「さまざまなこと思い出す桜かな」(芭蕉)。通勤の道に仰ぎ見る桜並木のつぼみはまだ固い。惜別の友の洋々たる前途を祈りながら、春爛漫(らんまん)を待つ。(球)

2017年3月21日 無断転載禁止