香港行政長官選挙/高度な自治からほど遠い

 香港政府トップの行政長官選で、事実上中国が指名した元政府高官の林鄭(りんてい)月(げつ)娥(が)氏(59)が圧勝した。選挙は親中国派が多数を占める選挙委員会(定数1200)の投票で行われ、民主派が支持した候補は敗れた。民意を反映しない選挙に民主派らは強く反発している。

 1997年7月に英植民地だった香港が中国に返還されて20年。中国は香港に「高度な自治」を認めると約束したが、選挙は現実がほど遠いことを見せつけた。中国は国際社会に公約した通り、行政長官の普通選挙を認め「高度な自治」「一国二制度」を実現すべきだ。今のような強引なやり方では、住民の広い支持を得ることはできない。

 林鄭氏は英植民地時代からの経験を持つベテラン官僚で、2012年7月からはナンバー2の政務官として中国寄りの香港政府を支えた。返還後4人目の親中派の行政長官で、女性は初めてだ。

 香港メディアによると、中国指導部内で序列3位の張徳江・全国人民代表大会常務委員長(国会議長)が2月、香港の親中派要人に林鄭氏支持を内々に連絡し、圧勝を決定づけたという。

 返還式典で、当時の江沢民国家主席は「中国政府は返還後も香港の一国二制度や高度な自治を順守する」と国際社会に確約した。しかし、実際は、メディア統制も強まるなど香港は「民主化」ではなく「中国化」の方向へ進んだ。

 中国と香港の経済界の結び付きは強まったが、中国から香港への移民が増えて不動産価格が高騰したことや、中国人観光客のマナーの悪さもあって、香港住民の対中感情は悪化した。

 香港基本法(憲法に相当)は行政長官の普通選挙を認めている。14年、中国は形だけの普通選挙制導入を図り、立候補には親中派が多数の指名委員会の推薦を義務付けようとした。真の普通選挙からはほど遠く、民主派や学生たちは9月末から2カ月以上に及ぶ大規模デモ「雨傘運動」を展開。翌15年、香港立法会(議会、定数70)は中国の選挙改革案を否決した。

 こうした中で、中国は香港への高圧的な姿勢を強めた。15年には、中国政府に批判的な書物を扱う香港の書店関係者5人が中国当局の越境捜査によって相次いで拘束される事件も起きた。

 昨年9月の香港立法会選挙で、民主派は改選前より3議席多い30議席を獲得。うち2人は就任宣誓の際「香港は中国ではない」と英語で書いた幕を掲げた。中国は事実上2人の議員資格を剥奪する決定を行った。

 李克強首相は3月の全国人民代表大会(全人代=国会)の政府活動報告で「一国二制度、港人治港(香港人による香港の統治)、高度な自治の方針を全面的に正しく貫徹し、厳格に憲法と基本法によって事を行う」と強調した。言外に「香港が独立したり、中国の政権転覆を図る運動拠点となったりすることは決して許さない」との強硬な姿勢が読み取れた。

 中国は、若者を中心に中国離れが際立つ香港の民意を警戒し、高圧的な対応に出ているようにみえる。だが、腕力で信頼は得られない。中国が本当に香港の繁栄と安定を願うのであれば、香港の民主化推進が不可欠だ。

2017年3月30日 無断転載禁止