ボタンの美

 島根県の花・ボタンは、300年ほど前の幕藩時代から栽培されている。特に大根島(松江市八束町)のボタンは全国的に知られ、春の行楽シーズンには数万株の花が咲き乱れる。明日から4月。今年も多くの観光客が訪れることだろう▼中国・西北部が原産のボタンは一説では9世紀初め、唐に渡った空海によって日本に伝えられたという。品種改良が盛んに行われ、大根島のボタンは約300種を数える▼ボタンは別名で「富貴草(ふうきそう)」「名取草(なとりぐさ)」などがあり、花言葉は「王者の風格」。まさに「花王」と呼ぶのにふさわしい。「競牡丹(くらべぼたん)」という言葉がある。ボタンの花が美を張り合うように咲く様子のこと。華麗な女性があでやかさを競う姿に例えられる▼韓国のテレビドラマでおなじみの新羅初の女王である善徳女王に、ボタンにまつわるエピソードがある。善徳女王は、唐から父王に届いたボタンの絵を見て、「この花はきれいだけど匂いはないでしょう」と言った。父王が訳を尋ねると「花に群がる蝶(ちょう)や虫が描かれてない」と答え、実際にボタンを取り寄せたら匂いがなかった▼ボタンは人に強く感じられる香り成分はないが、品種によってはバラのような甘い香気を放つ。「競牡丹」にちなみ、香りや豊かな花弁など、さまざまな角度からボタンの美を比べるのも楽しい▼「福の神 やどらせたまふ ぼたん哉」(一茶)。ボタンは美しさを競うばかりでなく福も授ける。「花神」の別名もある。神話の国の花にふさわしいと改めて思う。(野)

2017年3月31日 無断転載禁止