韓国前大統領逮捕/政治風土に課題がある

 韓国の朴槿恵(パククネ)前大統領が財閥からの巨額収賄や職権乱用などの容疑で逮捕された。韓国憲政史上初となった大統領職からの罷免に続き今後、起訴され刑事被告人として法廷に立つことになる。

 韓国政治を混乱させた今回のスキャンダルは、民主化から30年を迎えた韓国の政治風土にも重い課題を投げかけている。前大統領が憲法秩序を無視するように振る舞うことができた制度的な問題点を考える機会にしてほしい。

 父親である朴正熙(パクチョンヒ)元大統領が側近に銃殺され、母親も朴元大統領を狙った銃弾の流れ弾で失った”悲劇のプリンセス”の末路として、悲惨極まりないのは事実だ。

 前大統領のさまざまな疑惑を報じ非難してきた韓国メディアの中には、罷免により政治的制裁は受けたので、逮捕は見送り、在宅起訴で公判を進めるべきではないかとの同情的な論調も出ていた。

 しかし、前大統領が強大な権限を行使し、憲法秩序をないがしろにした責任は同情論では済まない。法や秩序を無視した統治スタイルの実態が次々と暴かれると、公務員は虚脱状態に陥り内政は停滞、低迷する経済も大手財閥への捜査で打撃を受け、外交面でも空白状態が続いている。

 さらに、保守と革新の対立が広範囲に拡大し、韓国社会に容易には修復することができない亀裂を残してしまった。5月9日に繰り上げ実施される次期大統領選でも、保守陣営が前大統領を擁護するかどうかで分裂し、保革対立の構図は複雑になっている。

 次期大統領選では、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)・前代表が世論調査や党内予備選で高い支持を集めており、革新政権が登場する可能性が高まっている。2012年の前回大統領選で前大統領に僅差で敗れた文氏は、スキャンダル糾弾の先頭に立ってきた。

 韓国で大統領経験者の逮捕は、盧泰愚(ノテウ)、全斗煥(チョンドゥファン)両氏に続いて3人目だ。軍人出身の大統領として、収賄罪のほか内乱罪などにも問われた2人と前大統領を単純には比較できないが、背景にあるのは強大な大統領権限と、そこから恩恵を受けようとする財閥との癒着の構図だ。文氏はこれを意識してか財閥解体に近い経済改革を主張している。

 しかし、まず議論すべきは「帝王的」と比喩される大統領権限の見直しや、保革対立で生じた韓国社会の分断状況の修復ではないだろうか。このまま文氏が大統領に当選すれば、保守陣営の反発はさらに強まり、韓国政局の混乱は長期化する懸念がある。

 保革どちらの候補が大統領になっても、強大な大統領権限の分散化を検討しない限り、繰り返されてきた権力型スキャンダルの構図から脱皮することは困難で、似たようなスキャンダルが数年後に再現されてしまうかもしれない。

 韓国政局の混乱長期化は、北朝鮮の核・ミサイル開発という共通の脅威に直面している日本や米国との連携にもマイナスだ。何より、日韓政府間でまとめた元慰安婦を巡る合意履行が少女像設置で後退、冷え込んだ関係を復元する政治力が見えてこないことが深刻だ。前大統領の逮捕という試練を乗り越え、共存する未来づくりへ努力を傾けたい。

2017年4月1日 無断転載禁止