スー・チー政権1年/民主化の停滞を憂慮する

 ミャンマーで国民の期待を担うアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相が事実上トップの政権が発足して1年。国軍による少数民族迫害問題が国際社会の批判を浴び、国民和解や経済再建にも難題が多く、民主的改革の停滞が憂慮される厳しい状況だ。政府と国軍が内外の期待を裏切ることがないよう切に望む。

 スー・チー氏は少数民族武装勢力と国軍の和平を最優先課題としているが、北東部シャン州では国軍と武装勢力の衝突が頻発している。

 1日に現政権下で初の連邦議会の補欠選挙があったが、スー・チー氏が率いる国民民主連盟(NLD)は少数民族地域で票を伸ばせず、9議席あった議席を1減らした。

 国際社会の注目が集まっているのは、多数派の仏教徒からの差別に苦しむ西部ラカイン州のイスラム教徒少数民族ロヒンギャだ。昨年10月以降、国軍によるロヒンギャ住民の殺害や暴行、レイプが伝えられ、批判が強まった。政府が設置したアナン元国連事務総長を委員長とする諮問委員会が事態を調査中だが、これに加え、国連人権理事会が独立調査団を派遣する決議を3月に採択した。

 政府側は国連人権理の調査団を受け入れない姿勢を表明しているが、事実究明と住民の人権保護を目指す調査には協力すべきだ。現状では現場への入域が制限されているが、人道支援団体や報道機関のアクセスは認めなければならない。

 軍事政権下で制定された現行憲法では民主化が不十分で、約半世紀も支配を続けた国軍がなお強大な権力を保持していることが、問題解決の足かせとなっている。

 一昨年の総選挙ではNLDが圧勝したが、憲法の規定では外国籍の家族がいるスー・チー氏は大統領になれない上、治安関係の重要閣僚は国軍が任命する。政権の名目的トップは昨年3月30日に就任したNLDのティン・チョー大統領だが、同4月6日に国家顧問に就いたスー・チー氏が実権を握り、日本を含む各国が事実上の元首として遇している変則的政権だ。

 少数民族問題の経過を見ると、スー・チー氏が国軍を掌握できず、国軍が暴走している疑いが濃厚だ。国軍は、真の民主化のための憲法改正への抵抗をやめるべきだ。

 スー・チー氏も、ノーベル平和賞を受けた民主化運動指導者の誇りに懸けて人権を尊重し、透明性のある政権運営に努めてほしい。政権発足後、記者会見や国会で自らの見解を表明する機会がほとんどなくなっている。軍事政権時代、自宅前で民衆に語りかける気さくな対話集会を頻繁に開いた時期もあったことを考えると、残念だ。

 長年の国軍支配と国際的孤立で疲弊した経済の立て直しも難題だ。暮らしが良くなったと庶民が感じられなければ、期待が落胆に変わって政権基盤が弱体化し、民主化へ向けた国軍との交渉どころではなくなるだろう。

 国際社会の支援が欠かせない。3月には、武力紛争が長年続いた東部カイン(カレン)州で、日本政府の支援によって建設された復興支援住宅が初めて完成した。日本政府は「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるミャンマーの和平や民主化につながる支援をさらに増やすべきだ。

2017年4月6日 無断転載禁止