指南役の心変わり

 企業収益が好調で人々に仕事があれば物価が上がらない生活の方が良い-少し回りくどい言い方だが、世間の感覚では至極もっともだ。しかしこの人の口から出ると、どこか唐突感を否めない。物価が上がらなければ生活は良くならないと言い続けてきた人が「仕事があれば」という条件付きながら「物価が上がらない方がいい」に変わった▼米エール大学名誉教授でアベノミクスの生みの親である浜田宏一内閣官房参与の発言。デフレ脱却を目指して物価上昇の知恵を授けている指南役にとって禁句とも言える内容である。安倍政権の知恵袋に「心変わり」の時期が来たのだろうか▼金融緩和で物価上昇を目指すアベノミクスが発動されて4年。物価を2%上げる目標は達成されていないが、経済活動を巡って人手不足が過熱している▼物価目標の狙いは人々に仕事を与えて雇用を増やすことであり、雇用が既に腹いっぱいになっているのに、これ以上物価を上げることに拘(こだわ)れば副作用の方が怖い▼既にその兆しは表れている。原油価格がじわりと上昇し、あおりでこの春から食用油や紙、タイヤなど身の周りで値上げの動き。社会保障の分野は高齢者向けの医療、介護の負担増もめじろ押し▼ひたすらデフレ退治に知恵を絞ってきた浜田氏も目標見直しの潮時を肌身に感じてきたのかもしれない。アベノミクスの常識は世間の非常識となりつつあるのではないか。そんな自省を指南役に期待しつつ物価が上がって何がめでたいとの言葉も贈りたい。(前)

2017年4月12日 無断転載禁止