諫早干拓20年/政治決着で終止符を

 有明海南西部の諫早湾(長崎県)で国が進めた干拓事業で、潮受け堤防の開門の可否を巡り司法判断が割れる中、干拓地営農者らが国を相手取り、潮受け堤防排水門の開門差し止めを求めた訴訟で、長崎地裁は17日、差し止めを命じた。

 これまで、干拓地の営農と工事が不漁の原因と主張し、漁場の復活へ堤防排水門を開くよう求めた佐賀県の漁業者側の訴えを認めた福岡高裁の確定判決と、塩害を懸念して反対する長崎県の営農者側に沿う長崎地裁の開門差し止めの仮処分決定が並立していた。

 閉め切りから20年、営農者、漁業者それぞれの思惑が複雑に絡み、かつての豊かな海は争いの舞台と化していた。開門か否かの二者択一では、利益相反の双方とも互いに譲りようがない。節目となる今年、長年の紛争を解決する高度な政治的決断が求められている。

 国は「開門命令」と「開門禁止」の相反する義務を負う形になっているが、営農者、漁業者のいずれもが巨大な公共事業に翻弄(ほんろう)される被害者である。そこには、工事を推し進めた国の調整能力の限界が見える。

 海水をせき止める293枚の大型鋼板がしぶきを上げながら次々に落とされる様は、「ギロチン」に例えられ注目を集めた。一方で、司法の場では判断が割れ、前代未聞の状況が発生した。

 排水門は閉ざされたままなので、国は漁業者側に制裁金を払い続けている。仮に開門しても支払い先が営農者側に代わるだけだ。

 混乱を収めようと長崎地裁が和解勧告しても溝は埋まらず、今年3月に和解協議は打ち切られ、地裁は差し止め判決を言い渡したが、他にも係争中の関連裁判が複数あり、法廷闘争は長期化、複雑化の様相だ。

 国は、関連訴訟が続いていることを理由に最終的な解決を司法に委ねる姿勢を崩してこなかった。しかしそれは失政の責任転嫁にほかならず、納税者の理解を得にくい公金での制裁金支払いが続くことになる。そもそも訴訟の乱立を招いたのは、そうした当事者意識の欠如であり、無責任体質ではないのか。

 行政も司法も行き詰まってここまでこじれたならば、紛争全体をまとめて解決するしかない。そのためには、政治決着で終止符を打つべきだ。

 その際、漁場の再生に向けて開門のほかに手だてはないのか改めて考える必要があろう。有明海の環境変化の要因には、注ぎ込む筑後川のせきや熊本新港の建設による影響なども指摘されている。これまでの試み以外にも有効策があるかもしれない。

 気になるのは、問題が深刻化しても、所管する歴代農相のリーダーシップが見えないことだ。記者会見などで解決に向けた努力宣言や協力の要請が繰り返されるが、具体性に乏しく、和解協議の打ち切りに対しても、現在の山本有二農相は「一連の訴訟に適切に対応」「問題解決に努力」と繰り返した。

 落としどころを判断するには、関係者の本音を誠実に聞くことが大事で、あえて現地の関係者の中に飛び込む気概が必要ではないか。信頼関係の構築は、政治決断の大前提である。

2017年4月18日 無断転載禁止