タイムカプセル

 盗んだバイクで走り出したり、夜の校舎で窓ガラスを壊して回ったり。1980年代に「10代の代弁者」と評された尾崎豊の曲の歌詞は、社会や大人への怒り、自由や愛への渇望に満ちていた▼自分が自分らしくあるために、どう生きるか。自らをさらけ出して歌い1992年4月25日、26歳の若さで急逝した。25回目の命日が近い▼誰にでも、かつての記憶や思いを一瞬で蘇(よみがえ)らせるタイムカプセルのようなものがある。筆者は尾崎の命日が近づくと、彼の「信者」だった迷い多き思春期と、駆け出し記者の頃を思い出す。「一つでも多く地域の役に立つ記事を」。有(あ)り体(てい)だが、誓いを立てて新聞社に入ったのが25年前の4月。直後に尾崎が逝った。動揺する余裕もないほど取材に駆け回った▼25年前の誓いが守れているか。これから先は守れるか。尾崎の命日は生き方を自問し、現時点の答えを考えるきっかけをくれる。彼の歌詞を借りれば、転んでも「あがき続けた」経験が、今の自分を支えていると再認識できる▼鳥取県中部を襲った地震から、きょうで半年。復興と被災者の生活再建は道半ばだが、遅れていた住宅屋根の修繕や集客拠点の修復が進むなど、官民の努力が実り始めた。地震を教訓に、防災・避難対策も見直されている▼地震の爪痕や記憶を消し去ることは難しくても、乗り越えた先には得るものがあるはずだ。「10月21日」というタイムカプセルを開けたとき「あの経験があればこそ」と思えるよう、知恵を絞り支え合いたい。(杉)

2017年4月21日 無断転載禁止