住民訴訟の賠償軽減/不正抑止機能の維持を

 住民訴訟制度で、軽微な過失の場合には、賠償に限度額を設けて負担を軽くしようという地方自治法改正案が提出された。成立すれば、条例で定める上限額を超えた分が免除されるようになる。

 同制度は、公金の違法な支出などで生じた損害について、地方自治体に対し、賠償を首長や職員に請求させる仕組み。行き過ぎた職員待遇や不当な売買契約額などで多くの原告勝訴判決がある。情報公開請求と並んで住民が行政側をただす武器と言える。

 改正の背景には、公の事業に絡む賠償は巨額になりがちで、萎縮を招き、健全な行政の仕事を妨げているとの指摘がある。正しい公務に賠償は生じないが、うっかりミスは起きる。他の自治体の誤った先行例に倣って間違えたという話もある。悪意や故意でなく、こうした「同情の余地」があるケースにも容赦なく賠償額を積み上げるのは酷だという意見はあるだろう。

 ただし、賠償額がペナルティーの体をなさないほど低く抑えられるようなら、公金を扱う責任感や緊張もうせ、お手盛りの救済との非難は免れない。住民訴訟制度に期待される不正の抑止機能は維持しなければならない。

 上限額の目安として総務省は、会社法が企業トップの賠償責任としている年収の6倍を念頭に置くが、最終的には条例で決めるため自治体の判断に任せる。さらに「返せるだけ返してもらう」とのスタンスで、年収の3年分程度の下限を政令で定め、過度に免除させない考えだ。

 これを首長の平均年収に当てはめると、知事の賠償額はおおむね1億~5千万円、市町村長で6千万~3千万円になる。その妥当性は法案審議で論じられるだろう。

 同省によると、2005~15年度に1億円以上の賠償を命じた住民訴訟判決は計11件あった。最高は外郭団体への人件費支出が問われた神戸市長の約55億円。東京都の豊洲市場問題では住民側が、石原慎太郎元知事に用地費約578億円を請求するよう都を訴えている。

 論議の過程では、過失の度合いが軽微ならば損害賠償をゼロにする意見もあったが、見送られた。日弁連によると、住民訴訟の過失認定は通常事件よりかなり慎重だという。軽いミスが対象外になれば、違法な会計処理の大部分で責任を追及できない恐れがあり、違法行為が是認されたように見える。公金を失った結果責任は、割り引いてでも負ってもらうのは当然だ。

 地方議会の議決で賠償請求権を放棄できる仕組みの扱いも懸案だった。与党会派などが首長らをおもんぱかって議決が乱発されれば、住民訴訟の制度そのものが形骸化するからだ。改正案は議決に際して監査委員の意見聴取も求めているが、乱用防止には物足りない。少なくとも門前払いに等しい係争中の賠償請求の放棄は制限すべきだ。

 住民訴訟の見直しに連動して、自治体の不正会計などを未然に防ぐためのリスク評価やチェック強化などの改正も盛り込まれた。もとより自治体の仕事には、できるだけ安価で最大の効果を挙げる「最少経費原則」が課せられている。法律で不正防止を図られる以前に、公金を扱う者の無謬(むびゅう)性が納税の大前提であることは言うまでもない。

2017年4月23日 無断転載禁止