交通安全、社会問題に 「事故大国」インド

インドの首都ニューデリー中心部で、ヘルメットをかぶらずバイクに乗る人たち=16日(共同)
 【ニューデリー共同】自動車販売が急増する新興国で、交通事故が深刻な社会問題になっている。世界保健機関(WHO)によると、死亡事故の9割が中・低所得国に集中。各国で関連法制の整備は徐々に進むが、運転教育などの対策が追い付いていない。交通事故の死者が世界で最も多い「事故大国」インドの実情を探った。

 「30メートル真っすぐ走って試験は終わり」。首都ニューデリー東部にある首都圏政府の運転免許試験場。この日、試験に合格したばかりの男性は屈託なく笑った。

 試験場は車が20台駐車できる程度の広さ。交通標識などを備えた試験用コースはない。同乗した試験官は標識について尋ねもしなかったという。

 インドの2013年の交通事故死者は13万7572人で日本の約31倍、14年は約34倍に上った。ここ10年間で100万人以上が死亡、減少傾向の中国を超え世界最大の事故大国となった。救急システムや公的保険も未整備だ。交通事故の撲滅を目指す現地の非政府組織(NGO)セーブ・ライフ基金によると、事故で毎年30万人以上が身体障害者になるという。

 事故が増え続ける要因は、ずさんな運転免許試験にとどまらない。

 「政府非認定の運転教習所が幅をきかせているのが問題だ」。ニューデリーの教習所経営者ラケシュ・サワル氏(47)は憤る。インドでは一般免許の取得で認定校に通う必要はない。当局によると、ニューデリー市内に認定校が約70校あるのに対し、非認定校は約1500校。教室はなく、教習車1台だけの個人業者も多い。交通標識の読み方を指導しないことすらあるが、認定校に比べて授業料が安いという。

 取り締まる側の態勢も不十分だ。交通違反に対する点数制度や当局の事故削減目標はなく、国全体で統合された免許証データベースもない。

 政府は罰則強化を盛り込んだ道路交通法改正を検討している。乗用車のエアバッグ標準装備も義務化する方針。だが、現地自動車大手幹部は「小手先の対策。試験の厳格化や信号、ガードレールなど安全インフラの整備など他にやるべきことは多い」と渋い顔だ。

 セーブ・ライフ基金のピユシュ・テワリ代表は「インドではマラリアやデング熱より交通事故の死者が多い。事故で貧困に陥る人も多く、国家にとって重要な問題と認識されるべきだ」と指摘した。

共同通信社 2016年3月17日 無断転載禁止