映画プロデューサーのささやかな日常(48)

「天のや」の玉子サンド
「差し入れ」グルメ

   ハードな現場の楽しみに


 映画製作の最大のヤマ場は撮影ですが、撮影には「差し入れ」がつきものです。映画業界でいう「差し入れ」とは、スタッフやキャスト・関係者が、日々働くスタッフのために撮影現場に持ち込む食べ物です。現場の一角には、「お茶場」と呼ばれるお菓子やコーヒー、水サーバーなどが置かれるエリアが設けられており、そこに「○○さんからです」などと書き添えられたりして置かれます。

 おそらく海外の撮影ではないこの風習は、日本人ならではのものと思います。スタッフは撮影現場に一日中拘束され、外部に出ることもままなりません。また常に立ち仕事で、休む暇もほとんどないため、特に甘いものが喜ばれます。

 たとえば、大福やどら焼き、アンパンなど。それ以外ではサンドイッチや煎餅、和菓子など一口でつまめるものが主流です。また炎天下や極寒の中での撮影もあるため、熱さで溶けたりせず日持ちがすることも重要です。こうやって書いてみると意外と条件がありますね。それで僕もいつも何にしようか悩みます(笑)。

 今までで特に印象深かったのは、三代目J Soul Brothersの岩田剛典さんから差し入れられた創業1932(昭和7)年「天のや」さんの「玉子サンド」。今まで食べたどんな玉子サンドよりもしっかりとしたサイズ感と深い味わい。関西風のだしたっぷりのだし巻き卵と、マスタードの効いたマヨネーズが、フワフワのパンとあいまって絶妙なバランスの逸品です。

 ときにはお弁当が差し入れられる場合もあります。女優の川口春奈さんからは、某焼肉屋さんの牛丼、豚丼でした。なんと普段はお弁当を販売していないお店に、自ら依頼して作っていただいたそうです。これも現場の疲れも吹っ飛ぶ絶品でした。とある大物俳優さんが差し入れてくれたのは、「パオン昭月」さんの生クリームあんぱん。東京都内の駒沢大学駅のほど近くにあるパン屋さんの知る人ぞ知る期間限定名物パンです。やはりそこでしか買えない限定品だったりわざわざお取り寄せされたりした差し入れは、ひと味もふた味も違います。

 地方でのロケ撮影の場合には、その土地土地の名産を頂戴することもあります。なんといっても今までで一番感動したのは『わが母の記』で沼津ロケの時にいただいた、「北口亭」さんの肉ギョーザ!! 原田眞人監督が、ご自身の出身地で大好きな御用達店のギョーザを手配してくれたのです。撮影時は2月で、冷めてもあんがぎゅうぎゅうでうまみあふれるギョーザは役所広司さんや樹木希林さんも喜んでいらっしゃいました。

 差し入れは、誰かに喜んでもらおうとする気持ちがぎゅっとこもっている一品。特に役者、監督のみなさんは、さすがの喜ばせ上手です。そして、ときにはスタッフと役者さんが一緒になって同じものを味わうのも、ハードな撮影の合間のこの上ない楽しみ。これも映画に関わる喜びの一つと言ってもいいのかもしれません。

(松竹映像本部・映画プロデューサー、米子市出身)=随時掲載=

2017年4月28日 無断転載禁止